文章を理解するプロセスを、「おじいさんの服」から考える
おじいさんはどんな服を着ていた?
「昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいました。ある日、おじいさんは山にしば刈りに行きました」。さて、ここで質問です。おじいさんは何色の服を着ていますか?
国語的に読むと、この文章にはおじいさんの服についての説明はありません。したがって、答えは「わからない」です。しかし、この文章を読んでおじいさんの服装や色が何となく心に思い浮かんだ人もいるかもしれません。なぜ、文章に書かれていない情報が思い浮かぶのでしょうか。それは、人が文章情報を理解するプロセスに理由があります。
文章の情報を私たちはどう処理しているのか
私たちは、同じ小説を読んでも、人によって理解や解釈が違うことがあります。同じ文章を読んでいるのに、友だちや先生と違う情景を思い浮かべていた経験もあるでしょう。なぜこのような違いが生まれるのでしょうか。
その違いは、人が情報を処理するときに使う長期記憶、つまり経験や知識が異なることから生まれます。人は文章に書かれた情報を手がかりとして、その情報と関係しそうな経験や知識と組み合わせ、そこに書かれた状況の「モデル」を作ります。つまり、人が情報を処理するときには、文章の情報だけでなく、文脈や、その人の経験や知識などの長期記憶の情報が関わっているのです。
文章の理解は個人差があるから面白い
冒頭の文章は「昔々」から始まるので、多くの人は昔話にまつわる長期記憶も使って理解します。もし昔話をあまり知らない人であれば、また異なる情報を使って理解するでしょう。一方で、「服についての記述がないということは裸だったのかもしれない」と考える人はおそらくいません。これは、おじいさんは服を着ているものだという長期記憶が私たちの頭の中にあるためです。
このように、文章の理解には私たちそれぞれの長期記憶が影響を与えます。同じ文章を読んでも人によって理解が異なるのは、むしろ当然なのです。
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