児童虐待が生じた家族全体への心理的ケアが、子どもの心の安定を図る

児童虐待が生じた家族全体への心理的ケアが、子どもの心の安定を図る

虐待をしてしまう保護者にも必要なケア

児童虐待の問題では、虐待をする保護者本人の生育歴、経済的問題や社会からの孤立など、保護者をとりまく課題は多岐にわたります。児童福祉施設等では、子どもは生活の安定と心理的ケアのなかで心が徐々に回復していくことも多いですが、家族への支援はいまだ不十分です。変わらない家族と交流するたびに子どもの気持ちが逆戻りし、不安定になってしまうこともよく見られます。こうした状況を少しでも緩和させるためには、虐待をする家族にも心理的なケアが必要であると考えられています。

ハードルが高い、保護者の心理的ケア

2010年、全国の児童養護施設の心理職やソーシャルワーカーを対象に、児童養護施設における家族支援に対する調査が行われました。そこでは約75%のソーシャルワーカーが「心理職に、保護者のケアをしてほしいと思っている」と回答しました。しかし実際に面接を行っているケースはほとんどない状況でした。保護者が抱える問題は複雑であり、心理的なケアを行うには専門的知識と多職種による連携が必要で、実践への「ハードルが高い」のです。そのため、さまざまなプログラムが開発されたり、保護者と子ども、心理職で家族合同面接を行うなどの実践が行われ、心理的アプローチの方法が研究され続けています。

「個」と「対人関係」の両立が重要

一方、子どもについては、幼少期に困難な状況にあったとしても、やがて社会に適応していく過程や、その要因を考察するレジリエンス研究があります。ある研究では、虐待など整わない環境で成長した子どもも、約1/3はよく働き、よく遊び、よく愛される健康な成人に育つとされています。これらの子どもたちは、学校の先生や地域の人など、成長過程のポイントで自分を気にかけてくれる大人に出会っています。例え保護者がその機能を果たさなくても、そういう大人に出会うことで心は健全に育つのです。自分らしさを認めながら、他の人に頼り頼られること、個の自立と他者との関係のバランスの中で子どもたちは育つのです。

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大正大学 臨床心理学部 臨床心理学科 准教授 田附 あえか 先生

大正大学 臨床心理学部 臨床心理学科 准教授 田附 あえか 先生

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家族心理学、臨床心理学

メッセージ

高校生までは、自分と境遇や考え方が似通っている人に囲まれることが多いと思います。しかし世の中は実に多くの人々が、さまざまな価値観を持ちながら生きています。また、自分にとってはマイナスと思える環境の中でも、たくましく生きている人もいます。臨床心理学を究めるためにはこうした多様性を理解する力が必要です。できるだけ多くの映画や本、音楽に触れて感性を磨く、あるいはボランティア活動や旅を通して多くの人に出会って視野を広げ、多くの価値観を身につけることが大切だと思います。

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大正大学は大正15(1926)年に設立された、2026年に100周年を迎える伝統のある大学です。6学部10学科の学問分野で文学や心理、歴史、メディアなど、多彩な学びを展開し、地域社会に貢献できる人材を目指します。キャンパスは東京都豊島区にあり、池袋・巣鴨からもアクセスしやすい立地です。全学部が4年間を同じキャンパスで過ごします。また、1学年約1200名の学生に対し、教員は154名。教員1人あたりの1学年の学生数が7.8名と、教員との距離が非常に近いことも特徴です。