“あなた”と“他の誰か”とでは、見える世界が違う!?

“あなた”と“他の誰か”とでは、見える世界が違う!?

心の病は身近なもの

うつ病や統合失調症などの心の病は、実は思春期に発症することが多いです。成長期でもある思春期には、進路の選択、友人関係の変化など、自分を取り巻く環境が変わり、多くのストレスを抱えるからです。その結果、心身の安定がゆらぐのです。つまり、心の病は、誰もがかかる可能性のある、身近なものです。あなたを含む高校生全員が、「心の病気の予備軍」とも言えます。

重い荷物を持ち続ける女性の思い

ここからは、統合失調症を抱えるある女性の話をします。女性は、出かけるときには必ず旅行バックに大量の荷物を入れ、それを抱えていました。その中身は、父親から相続された自宅の権利書、母親から贈られたオルゴールなど、外出には不必要なものばかりでした。その行動について、支援者たちは彼女の病的な不安や思考が原因であると考え、口々にやめるよう説得しました。他方、支援者の一人であるソーシャルワーカーは、女性と丁寧に関係を築きながら、本人の「生きる世界」を探りました。すると、女性の行動の理由が、徐々にわかってきました。それは、バッグの中身が、いずれも亡くなった家族を身近に感じられるものであり、彼女に安心感をもたらすものであるということでした。彼女の思いと世界に触れ、ソーシャルワーカーは、行動を止めるのではなく、「どうすれば亡き家族を身近に感じ、安心感を得られるか?」など、真に女性に必要なことを彼女と一緒に探し始めました。

生きる世界は100人100通り

人には、感性や価値観があります。それは、心の病の有無に関係ありません。私たちは誰もが、今まで生きてきた時間と空間のなかで、各々の経験を重ねて、感性や価値観を育てていきます。その感性や価値観は、私たちの物事の見え方や捉え方を規定します。つまり、100人いたら100通りの見え方や「あたりまえ」があるのです。ソーシャルワーカーは、このことを心に留め、心の病のある人の「生きる世界」と自分の「生きる世界」を理解するために、互いを知るための「かかわり」を大切にしています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

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先生情報 / 大学情報

大正大学 人間学部 社会福祉学科 准教授 鈴木 孝典 先生

大正大学 人間学部 社会福祉学科 准教授 鈴木 孝典 先生

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精神保健福祉学、社会福祉学

先生が目指すSDGs

メッセージ

精神保健福祉領域のソーシャルワーカーは、自分自身と向き合うことを大切にしています。心の病を抱える人の「生きる世界」を探るためには、自分の「理解」を常に疑う必要があります。自分勝手な理解では、相手の「生きる」を真に支えることができないからです。そのため、この仕事を目指す人は、時に学校で学んだこと、本で読んだこと、自分の目で見たことなどを一度疑ってみる癖をつけるといいと思います。私の話も疑ってみてください。それが結果的に、「人が人を支えること」の真理を探究することにつながるからです。

大正大学に関心を持ったあなたは

大正大学は大正15(1926)年に設立された、2026年に100周年を迎える伝統のある大学です。6学部10学科の学問分野で文学や心理、歴史、メディアなど、多彩な学びを展開し、地域社会に貢献できる人材を目指します。キャンパスは東京都豊島区にあり、池袋・巣鴨からもアクセスしやすい立地です。全学部が4年間を同じキャンパスで過ごします。また、1学年約1200名の学生に対し、教員は154名。教員1人あたりの1学年の学生数が7.8名と、教員との距離が非常に近いことも特徴です。