大きな範囲の配置図から建物を見てみよう
図面ごとの違い
建築の図面には、建物内の間取りを示す平面図や、建物を垂直に切断して横から眺めた断面図などがあります。これらは建物の形や空間を示すために描かれるものです。しかし、図面の中でも配置図だけは意味合いが少し異なります。配置図は、敷地内で建物の位置関係を示したものです。そのため、建物が向いている方位や、周辺の環境を伝える役目を持っています。さらに、配置図を描く範囲を敷地の外にまで大きく広げてみると、建物だけを見ているのではわからない周囲との関係性を読み取ることができます。
配置図を大きく見る
例えば、インドのデリーにあるパールモスクは、建物は周囲の建造物に合わせた方向を向いていますが、内部に入るとわずかに向きが変わります。パールモスクを、国を越えた大きな範囲の配置図で見ると、内部の向きは聖地であるメッカを向いていることがわかるのです。
また、アメリカのモダニズム建築の名作であるミース・ファン・デル・ローエ設計のファンズワース邸は、地上から1.5メートルほど床を浮かせた構造で、美しい浮遊感を生み出しています。下草の生えた林の中に建っている建物を、広い範囲で配置図を描いてみると、実はすこし先には幅が150メートルもある大きな川が蛇行していることがわかります。床を上げたのはデザインのためだけでなく、しばしば起こる氾濫の水位を避けるためでもあり、建物はミースが見つけた一本の木を囲うようにその配置が決められているのです。
周囲の環境
建築の名作の多くは、後世に残すために図面に記録されます。しかし、平面図や断面図だけでは、昆虫標本と変わりません。白い台紙に張り付けられた昆虫を見ても、生息環境を知ることはできないように、平面図や断面図だけを見ていても、建築家が周囲の環境にどのような配慮をしたのかはわからないのです。建築をより深く理解するためには、配置図から周囲の環境との関係を読み解くことが重要です。さらに、建物を設計する際には、周辺環境を把握するために大きな縮尺で読み解く必要があります。
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先生情報 / 大学情報
東京工芸大学 工学部 建築コース 教授 田村 裕希 先生
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