「誰のための学問か」を問い直す公共人類学

遺骨まで奪われた先住民族
先住民族と呼ばれる人たちは、植民地支配のなかで人間としての尊厳や権利を奪われてきました。その一例として、先住民族の先祖の遺骨が盗掘されたという事実があります。例えばオーストラリアだけを見ても、実に4万点近い遺骨と副葬品を含む先住民族コレクションが英国に持ち出され、名だたる研究機関を中心に集められてきました。目的は研究のためです。その背景には、先住民族の身体的特徴を明らかにして、非先住民族よりも「劣った存在」として位置づけようとする意図があったとも指摘されています。研究する側の一方的な思惑によって、遺骨までもが利用されたのです。
社会の課題を解決する学問へ
人類学は、多様な存在である他者について学び、理解を深めると同時に、それを合わせ鏡として自らを見つめ直す学問です。これまでは、研究者の間だけで議論されてきた「閉じられた学問」でした。しかし、近年は社会に開かれた学問として、公共的な課題に取り組む「公共人類学」が注目されています。そこには「応答の人類学」という考え方があります。これは、研究者の知的探究のためではなく、当事者の声に応えて、一緒に問題を解決しようとするやり方です。
先住民族の研究でも、今は彼らの声に応じて、先祖の遺骨を返還する動きが進んでいます。また、研究者と先住民族が協力して、先住民族の伝統的な知識を現代の課題解決に生かす協働プロジェクトも始まっています。研究者が主役ではなく、先住民族が自分たちのために、自分たちのことを学ぶ方向へと変わってきているのです。
当事者の立場に立つ
そんな中、日本ではいまだにオーストラリアの先住民族の先祖の遺骨を返還しておらず、国内でもアイヌや琉球の人たちの先祖の遺骨の多くが研究機関に残されたままです。こうした問題を解決していくためには、人間の尊厳を守り、当事者と共に行動していく姿勢が不可欠です。
社会の分断が深まる今、「他者の立場に立ち、他者と共に考える」公共人類学は、今後ますます重要な学問となるでしょう。
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先生情報 / 大学情報

龍谷大学国際学部 国際文化学科 教授友永 雄吾 先生
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