舞台上では本物が正解とは限らない? 作品に寄り添ったデザイン
舞台をどうデザインする?
演劇やコンサートのように、「上演芸術」では、衣裳や動き、物、光や音など、さまざまな要素を駆使して空間全体を演出します。舞台上の劇空間をデザインする上で何を考慮すべきかは、舞台美術に関わる人々の経験や知識によるところが大きく、まだあまり体系化されていません。こうしたポイントを学術的に明らかにしようと、劇空間デザインの研究が始まりました。
「本物=最適解」とは限らない
例えば、客席数が1000席を越すような大規模な劇場の舞台では、本物の素材を持ち込んでも本物らしく見えないことがよくあります。もし人が腰掛けられる大きさの本物の石を舞台上に置いたとしても、遠い席から見ている観客は「あれはなんだろう」と思うかもしれません。また、実際に人が腰掛けられる大きさの石は重くて動かしにくく、瞬時に入れ替える必要のある作品には向いていません。そのため、舞台では別の素材で石を作ることが多いです。色もあえてほかの舞台装置や衣裳などに合わせて塗り、作品になじみやすくします。劇空間デザインでは、観客に本物であると受け取ってもらうことが重要なのであって、それは本物を使うことが必ずしも必要とは限らないのです。
特性に合わせた素材選び
作品によってはジャンルの典型的なイメージを裏切るような空間が向いていることもあります。
それでもジャンルごとの特性を最低限考慮することは求められます。例えば、オペラは歌声と楽器の音色を直接観客の耳に届けるジャンルです。もし綿(わた)のような音を吸収しやすい柔らかい素材を舞台に敷き詰めると、生の音が届きにくくなってしまうでしょう。作品の魅力を最大限伝えられるような素材を使って舞台を構成することも、劇空間デザインでは重要な視点だといえます。ほかにも重要なポイントがないか、ドラマチックな空間を表現するにはどうしたらいいかなど、研究が必要なテーマはまだまだ山積みです。
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先生情報 / 大学情報
玉川大学 芸術学部 演劇・舞踊学科 教授 二村 周作 先生
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