見えない電波を可視化する

見えない電波を可視化する

電波に囲まれた日常生活

私たちの周囲には、スマートフォン、Wi-Fi、電子レンジなど、電波を利用するさまざまな電子機器が存在します。また電波を利用しない電子機器であっても、意図せず周りに電波を放出していることがあります。これは「電磁ノイズ」と呼ばれ、ほかの機器の動作に悪影響を与える可能性があります。例えば、病院で携帯電話の使用が制限されることがあるのは、精密な医療機器への悪影響を避けるためです。

電磁ノイズを防ぐ

電磁ノイズの影響を防ぐために、電子機器の開発者は規格で定められた値以下に電磁ノイズを抑えなければなりません。そのため、電子機器が発する電磁ノイズを計測して規定値以下であることを確認し、規定値以上の場合には発生源を特定して対処する必要があります。
しかし、目に見えない電波を計測するのは難しい課題です。電波は発生源から放射状に広がり、壁などによる反射や屈折により複雑な振る舞いをします。複数の発生源がある場合は、両者の位置関係、距離、電波の強弱などによって大きく異なる様相を見せるため、機器の周囲を網羅的に計測する必要があります。従来は、例えばペン状のアンテナを機器を囲むように動かして計測しており、多大な時間と手間がかかっていました。

電波の分布を可視化する

例えば、複数のアンテナを面上に並べて計測することで効率化する方法が考えられますが、単に並べただけでは、アンテナ同士の干渉などにより、正しい計測ができなくなってしまいます。そこで開発されたのが、メタマテリアルという新しい技術を使った「可視化システム」です。このシステムには、タブレット端末型の装置内に多数の小さなアンテナが特殊な方法で配置されており、2次元平面上で電波の強弱分布を一瞬で測定して可視化します。さらに、瞬間的にしか出ない電波もとらえることができるため、より正確な電磁ノイズの分析が可能です。これらの特長により、電子機器の電磁ノイズ対策だけでなく、通信アンテナの性能評価などにも役立つと期待されています。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

金沢大学 理工学域 電子情報通信学類 教授 八木谷 聡 先生

金沢大学理工学域 電子情報通信学類 教授八木谷 聡 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

電磁波工学、環境電磁工学

先生が目指すSDGs

メッセージ

電波を研究するために一番大切なのは、数学です。電波の広がりや屈折、干渉もすべて数学で計算できます。その基礎となるのが高校で学ぶ数学です。高校3年になると、数学で学んだことが物理の領域に入ります。そして大学の物理は数学の延長とも言え、数学がわかっていれば、物理も簡単にわかるようになります。電波の研究はその応用の一つで、例えばなるべく遠くまで電波を届かせるにはどうするかも、数学を基礎として計算します。電波に興味があるなら、数学をしっかり勉強して、基礎を身につけてください。

先生への質問

  • 先生の学問へのきっかけは?

金沢大学に関心を持ったあなたは

金沢大学は150年以上の歴史と伝統を誇る総合大学であり、日本海側にある基幹大学として我が国の高等教育と学術研究の発展に貢献してきました。本学が位置する金沢市は、日常生活にも伝統文化が息づき、兼六園などの自然環境に恵まれ、学生が思索し学ぶに相応しい学都です。江戸時代から天下の書府とも呼ばれ、伝統の中に革新を織り交ぜて発展してきた創造都市とも言えます。「創造なき伝統は空虚」との警句を胸に刻み、地域はもとより幅広く国内外から来た意欲あるみなさんが新生・金沢大学への扉を共に開くことを期待しています。