アーティスティックな視点から考察する人とメディアの関係性
メディアアートの先駆者
テクノロジーとアートを融合させた表現は、「メディアアート」や「デジタルアート」と呼ばれています。近年、最先端のデジタル技術を駆使したメディアイベントが盛んに行われ、また当該分野の日本のアーティスト集団が世界的に活躍し注目を集めています。その先駆者として知られるのが、前衛芸術家の山口勝弘(1928-2018)です。1940年代後半に抽象絵画からキャリアをスタートさせた山口は、1951年に「実験工房」という芸術家集団を結成し、テクノロジーを軸として美術、音楽、映像、舞踏など芸術の諸領域を統合する独自の創作活動を展開しました。
イマジナリウム
山口の代表作として知られているのが、ガラスの屈折によって動的なイメージをつくり出す『ヴィトリーヌ』という絵画作品のシリーズです。また1970年頃からは、当時最先端のメディアであったビデオによる作品制作(ビデオアート)に取り組みます。こうした活動を通して、山口が社会に提示したのが「イマジナリウム」という概念です。イマジナリウムについて端的に説明するのは難しいですが、メディアを介して芸術作品を「情報化」する試みだと言えるでしょう。不特定多数の人が自由にアクセスし、情報をアップデートしていく「ウィキペディア」に通じる概念を、彼はインターネットやデジタル技術が未発達の時代にいち早く構想していたのです。
テクノロジーとアート、人
現在では、AIなどさまざまなテクノロジーが開発され、私たちの生活や産業、教育を劇的に変化させています。しかし、単に便利なツールとして消費しているだけでは、テクノロジーの本質は理解できません。テクノロジーの進化によって新しいメディアが生まれ、それを応用した新しいコンテンツに触れることで、私たちの生活はより豊かになることでしょう。テクノロジーと表現の関係性について考えたり、特定のアーティストの足跡をたどることで、メディアテクノロジーとアート、そしてそれを受容する人間との関係をより深く捉えることができるのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪経済大学 情報社会学部 情報社会学科 教授 北市 記子 先生
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メディア表現論、情報デザイン学先生への質問
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