「人」の視点から防災・減災を考える
救急搬送のデータを検証する手法
大災害が起こると、消防に出動要請が集中して機能がまひしてしまいます。1995年の阪神・淡路大震災を契機に、大阪市の消防データを基にした「災害が人に与える影響」が研究されるようになりました。これは、「救急の搬送時間」や「建物などの被害」ではなく、患者の住まいが戸建てか集合住宅か、そして誰が、家のどの場所で発見して救急連絡をしたのかといった、「人」中心の視点です。消防データは個人情報であり、研究に使用する際は医学や建築学、防災学などと共に行い、得られた成果を提供元に還元して、防災や減災に役立てるのです。
時間差がある災害の影響
震災関連死のデータを研究することも、防災や減災には重要です。コロナ禍での救急データと指令内容を分析すると、災害関連死には時間差が見られます。コロナ禍が始まった頃、都市部では中高年の自殺者が増え、2年ほどたつとその年齢は10代後半にまで下がっていたのです。
一方、東日本大震災での「災害弔慰金」申請を見ると、宮城県では1年以内に9割の遺族が申請を終えていますが、とりわけ甚大な被害を受けた石巻市は、10年たってからも、ぽつぽつと申請が出ています。被害の惨状を表しており、震災が終わっていないことがわかります。
住まいの防災学、そのスタートは
地震災害では、古い木造住宅で暮らす高齢者がどうやって身を守るかが重要で、救急データの分析からも見て取れます。年金生活では家の耐震補強などがままならない場合も多く、課題は山積しています。ある研究によると、最小限必要な防災スペースは、ベッドまわりの1m×2mで、避難路も75~80cm幅で良いとされています。その周りを低い家具などで補強することで、仮に家がつぶれても、命が助かるスペースになるという考え方です。
防災の研究とは、高度な学際的分野です。このように、大災害へ備える研究には、従来の発想にプラスした視点が必要であり、また研究者達が行動して連携する姿勢も重要なのです。
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