時には人を隔て、時には人をつなげる「国境」に目を向ける

時には人を隔て、時には人をつなげる「国境」に目を向ける

中露の国境問題

島国である日本とは異なり、多くの国は自国を他国と隔てる国境を有しています。例えば共に広大な国土をもつ中国とロシアを隔てる国境は全長約4千km、ロシアがソ連の時代は約7千kmに及び、歴史の中でたびたび領土問題が発生しています。冷戦時代の1960年代には、中国とソ連を隔てるウスリー川の珍宝島(ダマンスキー島)の領有を巡って武力衝突が発生し、核戦争が危惧されるほどの深刻な対立を引き起こしました。ソ連崩壊後の1990年代にも中国からロシアへの移民流入をきっかけに再び領土問題が激化しますが、過去の教訓を生かして解決に至りました。

日本の国境問題

中露間ではその後も粘り強い交渉が続けられて、2004年には両国間の国境問題は完全に解決されました。一方、日本とロシアとの間では北方領土問題が今も解決されておらず、対馬や尖閣諸島においても隣国との間にいさかいが生じています。
こうした国境を巡る問題は、国際政治や国際関係における重要な研究テーマです。従来の研究では、各国政府や主要マスメディアの言説が重視されてきましたが、それだけでは見えてこない問題があります。例えば国境地域の新聞には中央メディアが報じないことが書かれていることが多いため、国境地域を実際に訪れて地理的・空間的な特徴を理解することで、政府やメディアが報じていることに含まれる「うそ」を見分けることもできます。

国境に目を向ける

国と国との衝突の最前線になることが多い国境ですが、人々の交流の最前線であることもまた事実です。両国の関係が安定して人々が行き来しやすくなれば、国境地域には雇用が生まれ、観光産業が盛り上がるなど、大きな経済的効果がもたらされます。ウクライナやパレスチナといった地域で戦争が起こり、国際関係が一層複雑化する今こそ、「西側と東側」「反米と親米」といった表層的な言説に惑わされるのではなく、国境という特殊な場に目を向けて、そこで起こっていることを知り、考える姿勢が重要なのです。

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先生情報 / 大学情報

北海道大学 スラブ・ユーラシア研究センター  教授 岩下 明裕 先生

北海道大学 スラブ・ユーラシア研究センター 教授 岩下 明裕 先生

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国際政治学、国際関係論、境界研究

メッセージ

自分が進みたい大学を選ぶ際に、偏差値や知名度(ブランド)、通いやすさだけで選ぶのではなく、将来自分が何をやりたいかについても重視してほしいです。例えば大学在学中に留学にするにしても、大学の提携校から選ぶのではなく、自ら行きたいと思う国・地域に行くことができれば、より実りの多い留学になるでしょう。これは一つの例にすぎませんが、大学はゴールではなくスタートですから、その先の長い人生で活躍するために、より良い準備ができる進路に進んでほしいです。

北海道大学に関心を持ったあなたは

北海道大学は、学士号を授与する日本最初の大学である札幌農学校として1876年に創設されました。初代教頭のクラーク博士が札幌を去る際に学生に残した、「Boys, be ambitious!」は、日本の若者によく知られた言葉で本学のモットーでもあります。また、140余年の歴史の中で教育研究の理念として、「フロンティア精神」、「国際性の涵養」、「全人教育」、「実学の重視」を掲げ、現在、国際的な教育研究の拠点を目指して教職員・学生が一丸となって努力しています。