日本伝統の醸造技術を科学の力でパワーアップ
微生物を操る日本伝統の技
日本食は低カロリーで栄養バランスがよく、日本人の伝統的な食文化としての「和食」はユネスコの無形文化遺産にも登録されています。この日本食を支えているのが、カビなどの微生物をうまくコントロールして食品を生産する、日本独自の発酵技術です。中でも、コウジカビを蒸した米に振りかけて増やした米麹(こめこうじ)を使って、酒やみそ、しょうゆを造ることを「醸造」と呼びます。米麹作りは伝統的な手法で行われてきましたが、科学的なアプローチでその現象を解明し、米麹を合理的に設計して作る技術が研究されています。
日本酒の味わいを科学的に解析
コウジカビを35℃前後の温度で育てるとタンパク質分解酵素のプロテアーゼを作る米麹になり、みそやしょうゆの原料となります。それに対して、40~50℃で育てると、デンプンを分解するアミラーゼを作り出す日本酒の米麹になります。アミラーゼにも種類があり、近年多く造られている吟醸酒には、デンプンをブドウ糖(グルコース)に分解するグルコアミラーゼがたくさん必要です。できたブドウ糖は、酵母によってアルコールに分解されますが、酵素全体の数%の割合で存在する「αグルコシダーゼ」が作り出す糖類は、酵母に分解されません。この分解されない糖類が、酒のコクやまろやかさ、甘みのバリエーションの元です。そこでαグルコシダーゼの働きと温度等の条件との関係を解明し、思い通りの味を蔵元の現場で製造する技術の開発が進められています。
伝統的な日本酒の復活
一方で、伝統的な日本酒「本醸造酒」の製造は減少の一途をたどっています。日本酒の製造は職人の経験や勘によるところが大きく、このままでは本醸造酒の製造方法が失われてしまいかねません。伝統的な本醸造酒を守るため、醸造の科学的解析のみならず研究会の開催など、多面的な取り組みが始められています。こうした醸造に関する研究は、さらに医薬品や食品加工にもつながる可能性があるものとして期待されています。
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先生情報 / 大学情報
吉備国際大学 農学部 地域創成農学科 教授 井上 守正 先生
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