人間はなぜズルをする? そのメカニズムを明らかにする経済学の力
ズルを可視化する実験
ある実験で、主催者と524名の被験者がじゃんけんを行いました。被験者は自分の手は出さずに頭に思い浮かべてもらい、勝ち負けだけを申告してもらいました。一般的なじゃんけんの勝率は1/3、つまり約33%ですが、この実験では被験者の勝率が約46%に及びました。偶然勝率が13%も高くなることはほぼありえません。数にすると約70名がズル(不正)を行った可能性があります。このように実験でズルをする人は、現実社会でも不正欠勤や無賃乗車をする傾向にあることが、別の研究で明らかになっています。
ズルのメカニズム
じゃんけんの実験に工夫を加えて、被験者に「主催者より先に手を出しても、後で出しても良い」という条件を加えました。じゃんけんで先に手を出すと勝つことは難しくなりますが、ズルはできません。言い換えればズルをしない方法があると明示したことで、ズルは64%抑制されました。ほかにも、「8割の人はズルをしない」「若い人ほどズルをしやすい」という結果や、またズルをする人は「倫理的にはいけないことはわかっていても、合理性を優先させる」、反対にズルをしない人は「狡い行為をするなんて自尊心が許さない」と考えている傾向が明らかになりました。
ズルを深く知る
私たちの身近なところには、想像以上にたくさんのズルが行われています。しかしズルについて詳しく知っている人は多くありません。例えば会社のリモートワークでは、常にカメラをオンにして、社員がサボらないように監視するケースがあります。前述の実験でわかるように8割の人はズルをしないにもかかわらず、少数のズルをする人のせいで、大部分の人が余計な負担を強いられていることになります。
人間の行動や選択について考える経済学では、ズルについてもさまざまな視点から研究されています。ズルが起こるメカニズムや、効果的にズルを防ぐ方法を明らかにすることは、ズルとの「適切な向き合い方」を社会に示して生産性を上げるという意味でも、大きな意義をもっています。
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