脳の損傷で左が見えない患者に、元の暮らしをプレゼント!
見えているのに、見えない障害
視力に問題はなく、本人には自覚がないのに、左側の空間が見えなくなる障害があります。脳梗塞などの大脳の損傷でおこる高次脳機能障害の1つ「左半側空間無視」です。なぜ「左側」なのかといえば、それには大脳の不思議な機能が関係しています。左脳は右側の空間を認識しますが、右脳は左右両方の空間を認識します。つまりどちらの脳を損傷しても右空間は認識できますが、右脳を損傷した時には左空間が認識できなくなるのです。この障害があると、出された料理の左半分を残してしまう、道路の左角が見えないので左折できない、などの問題が起こります。
訓練と実生活では違う、リハビリの難しさ
そこで左半側空間無視の人には、作業療法士が左側に注意を向ける訓練をします。ところがいくら訓練をして良くなっても、実生活でうまく応用できるとは限りません。やはり訓練と実生活は違うからです。そこで基本的な訓練をしながら、同時に「車椅子で安全にトイレに行く」など、日常生活での具体的な目標を決めます。そこに向けて、車椅子を停止する時は左のブレーキをちゃんとかける、降りる時は左側の足置きを上げて足がひっかからないようにするなど、場面に合わせて左側を意識する訓練を重ねていきます。
オーダーメイドのリハビリを
脳の損傷には回復曲線というものがあり、損傷してから半年以内の「回復期」に集中してリハビリを行うことが大切とされています。リハビリを担当する作業療法士は、ただ認知機能の訓練をするだけではなく、楽しくリハビリが続けられるように患者一人一人の興味や生活に合わせた訓練法や退院後のプランを考えていきます。カラオケが好きならカラオケを採り入れた訓練を考えて、生活が不便なら障害に合わせた家の改築を提案します。リハビリは長期間続くこともあり、作業療法士は一人の患者や家族と深く、長く関わる、頼りにされる存在なのです。
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先生情報 / 大学情報
文京学院大学 保健医療技術学部 作業療法学科 教授 大橋 幸子 先生
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