移民のアイデンティティを支える継承語
家庭で受け継がれる継承語
移民の子どもが育っていく過程では、多くの子どもは移住先(ホスト国)の学校に通うことで、移住先の公用語を獲得していきます。家庭や移民コミュニティの中で使われる親の母語は、子どもたちにとって「継承語」となります。継承語は、子どもたちを親や親の出身国にいる親類とつなぐ役割を果たしています。ただし使う範囲が家庭内など狭いことが多く、継承語の力の発達は限られてしまうのが特徴です。
アイデンティティの獲得
近年の日本には、ブラジル人が多く在住しています。その多くが、日本からブラジルに移住した日本移民を先祖に持つ日系ブラジル人です。日本からブラジルへの移住は1908年に始まり1990年代まで続きました。日系ブラジル人の母語はポルトガル語ですが、顔立ちが日本人に近いことから、ブラジルでは「ジャポネーズ(ポルトガル語で日本人)」と呼ばれることもあり、ブラジル人としてのアイデンティティの獲得が難しいといいます。さらに、日系ブラジル人が日本で暮らした場合、見た目は日本人に近いのに日本語が話せないなど、新たな悩みを抱えるケースも少なくありません。言語とアイデンティティは密接につながっています。ブラジルでは日系ブラジル人の継承語は日本語でしたが、日本に住むようになると、自分の子どもたちの継承語はポルトガル語になります。そこで、近年は在日ブラジル人のために継承ポルトガル語教室が開かれています。
継承語はホスト国にもメリット
継承ポルトガル語教室が目標としているのは、語学力より日系ブラジル人としての自尊心の向上です。そのため、ブラジルの文化や移民の歴史なども併せて教えることで二つの文化を持つことの素晴らしさを伝えています。今後さらに多くの外国人を受け入れる日本にとって、彼らが自尊心を持って社会で生きるための継承語教育は重要です。移住者側の努力だけではなく、受け入れるホスト国の課題としても考える必要があると言えるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
神田外語大学 外国語学部 イベロアメリカ言語学科 ブラジル・ポルトガル語専攻 准教授 拝野 寿美子 先生
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