楽しい物語なだけじゃない! 『トム・ソーヤーの冒険』
冒険物語の名作
児童向け文学として長く親しまれている『トム・ソーヤーの冒険』は、豊かな自然が残る田舎町の子どもたちが、大人が解決できない問題を次々と解決していく作品です。わんぱくな少年トムが大活躍することから、楽しい冒険物語として読まれていますが、原書を読み解くと、全く違う側面が見えてきます。
複雑な家族関係
トムは、ポリーおばさんの家で弟のシッドといとこのメアリと共に暮らしています。児童向けに出版された翻訳本では、トムはシッドと一緒に学校に通っていますが、原書ではシッドだけ朝早く起きて出かけていき、トムはポリーおばさんに起こされてから登校しています。では、シッドはどこへ行ったのでしょうか。原書には、シッドは「トムと腹違いの弟」と書かれています。ポリーおばさんがトムの母親の姉妹だとすると、シッドとは血のつながりがありません。何らかの事情でやむを得ず預かることとなった子どもであるため、お金のかかる学校には入れずに働かせていると考えるのが妥当でしょう。トムが12歳前後だとすると、シッドは10歳前後の可能性があり、現在なら虐待ともいえる児童労働です。メアリも泊まり込みで労働をしている一方で、ポリーおばさんは働いていません。つまり、子ども2人を働かせたお金で生活していながら、血のつながった子どもだけをかわいがっている家庭なのです。
依存症の可能性
トムがジャムの盗み食いをするシーンがありますが、原書を読み解くと、ポリーおばさんは朝と夜しか食事を提供しておらず、昼食は抜きだったことがわかります。その一方で、ポリーおばさんは高額なペインキラーという薬を毎日1瓶くらい飲んでいました。当時のペインキラーは、非常に強いアルコールに麻薬のアヘンなどを溶かし込んだものです。これを常用していたのなら、アルコールや麻薬の依存症を起こしていた可能性も否めません。作者のマーク・トウェインは冒険物語の中に、当時のアメリカの家庭環境に潜む闇を描き出していたのです。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
就実大学 人文科学部 実践英語学科 教授 和栗 了 先生
興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!
アメリカ文学先生への質問
- 先生の学問へのきっかけは?
- 先輩たちはどんな仕事に携わっているの?