「根本的な理解」から広がる子どもの虐待の予防と支援
虐待する保護者は加害者なのか?
普段、子どもへの虐待が報道されると、例えば「虐待する保護者=加害者」というイメージをもたれがちです。本来、虐待する保護者は「罰の対象」ではなく「支援の対象」であり、報道での表層部分だけでは子どもの虐待を理解することはできません。理論に基づき「なぜ虐待が起こるのか」という科学的なメカニズムからとらえる必要があるのです。しかし今の日本では「子どもの虐待とは何なのか」といった根本的な理解のベースとなる基礎理論がありません。そこには、予防や支援ではなく「強制的な介入」の流れである2000年の児童虐待防止法の成立のもと、法的対応を「唯一万能な対策」としてとらえてしまった歴史的背景があります。
子どもたち自身が虐待を学ぶ意義
米国の小児科医ヘンリーケンプは、児童虐待を「保護者や世話をする人によって引き起こされた、子どもの健康に有害なあらゆる状態」と健康障害の視点で定義しています。欧米は、実態や発生メカニズムを分析することで理解を深め、治療法を模索し、早い段階から子どもの虐待について予防・支援的な取り組みが行われています。例えば子育て支援だけでなく、子どもたちに向けた「子ども虐待に対する教育」も行われています。理解を深めることで、子どもたちは虐待を受けているほかの子どものサポートに回ることができ、将来自分自身が虐待しない大人になるといった予防的な意義もあります。
協働に必要な「共通言語」
日本でも、ようやく子ども虐待への予防・支援的な取り組みの動きが出てきました。研究が進み、これまでなかった基礎理論という「共通言語」が確立すれば、専門職だけでなく、これまでバラバラに動いていた警察や司法、学校などさまざまな職種にネットワークや協働が生まれて、子どもと保護者への支援が広がります。また基礎理論を学んだ人が「子ども虐待への理解」を現場で役立てていくという意味では、教育と研究と臨床現場が一体となった人材育成にもつながっていくでしょう。
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長野大学 社会福祉学部 社会福祉学科 准教授 井上 景 先生
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