損傷制御が鍵! 地震に対して安全な構造物とは?
構造物の損傷制御による安全性の確立
地震時に安全な構造物とはどのようなものでしょうか。おそらく「壊れないもの」と思う人が多いでしょう。しかし地震に安全な構造物というのは、被害が最小限になるように「どのような損傷を構造物に生じさせるか」を考えて設計された、「上手な壊れ方」をする構造物です。
橋の場合、橋脚全体にわたって損傷が生じて橋桁がずり落ちるような破壊に至る損傷ではなく、根元が損傷を受けて傾きつつも、倒壊しないで「修理すれば直る」ような損傷ということになります。
また、構造物が頑丈すぎて大きな地震力に対して損傷を生じない場合には、橋桁に非常に大きな加速度が生じ、かえって危険です。そのため大きな地震に対しては、意図的に根元に損傷を生じさせて、構造物がしなるようにゆっくりと揺れるようにする設計が合理的です。
断層にまたがる橋梁の損傷予測
構造物の損傷を予測するためには、その損傷プロセスのシミュレーションが欠かせません。構造物に生じる物理量を計算することを「構造解析」といいますが、地震作用下の計算をできる構造解析ソフトは広く使われています。しかし、このような構造解析ソフトは、例えば橋の2本の橋脚が断層の両側にあって、地震の揺れと地面の変位が同時に起こるような場合には対応できません。日本にはまだ見つかっていない断層がたくさんあるため、今後シミュレーションが必要になるケースも出てくるでしょう。
構造物の設計・安全性評価の指針
そこで、小規模の断層の上であれば構造物が作れるように、損傷プロセスの計算アルゴリズムが開発されています。もっとも、断層の動きや構造物の形状は多様で変数が多すぎるため、規格化された設計指針を提示することは容易ではありません。しかし個々の事例にオーダーメイドとして適用していくことでデータを蓄積していけば、全体的な傾向を知る手掛かりとなり、断層を考慮した構造物の設計や安全性評価の指針のひとつになると期待されます。
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