記憶の研究が、「公正な裁判」のために役立つ
記憶は変容する
私たちは日々のことを記憶しながら生活しています。しかし研究では、例えば実験の参加者に交通事故の映像を見せて、「車の激突」と聞くか「車の接触」と聞くかで思い出すスピートが変わるなど、聞き方によって記憶が一部変わることがわかっています。また、全く経験していなかったことでも、繰り返し聞かれると「経験した」という記憶に丸ごと変わってしまう場合もあります。
ただ、人は多くの記憶を今の自分につじつまが合うように書き換えて、今の自分を保ちながら生活していることもわかっています。記憶の変容というのは人間が社会で適応しながら生きていくために必要なメカニズムでもあるのです。
正確な情報を聞き出す難しさ
しかし裁判という場面においては、記憶の変容はマイナスに作用します。特に「供述弱者」と言われる子どもや障害のある人々は、他者からの情報の影響を受けやすいと言われています。そのため、記憶研究の知見を応用した「司法面接」が2015年から採用されるようになりました。
司法面接での事実確認は「いつ? どこで?」「車は青? 白?」など回答を限定するような聞き方はしません。相手が話し始めたことに対して「うんうん、それから?」と相づちや促しをして、「~はどう?」など自由な答え方ができる質問を行います。
証言する人の気持ちに寄り添う
司法面接には2つの目的があります。1つ目は「誘導しない聞き方」で面接をすることで、証拠となる記憶が変わるのをできるだけ防ぐことです。2つ目は、証人が複数の機関から何度も話を聞かれるなど、聴取の過程で負うような二次的なトラウマを最小限にすることです。司法面接では、警察、検察、児童相談所などの関係機関の中の1名が代表して面接を行い、聴取回数を減らすことで、証言者の負担を軽減します。最近では、子どもなど配慮が必要な人の「主尋問に代わるもの」として司法面接の録画映像の提出が法律で認められるなど、証拠としての評価が確立しつつあります。
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