美術作品を観察し、価値を見いだす美術史研究の世界

美術史研究とは?
美術史は、ある作品を取り上げて、作品の調査から得られた情報に基づいて歴史・文化の中に位置づけていく学問です。調査では作品の材質や構造、保存状態を確認し、写真撮影で現状を記録します。また、必要に応じてX線撮影や3Dスキャンなども行います。さらに作品自体から読み取れる情報に加えて、文献資料にもあたって歴史的背景を見ていきます。つぶさに観察することで、作品を歴史の中に位置づけることができるのです。
磨崖仏の価値
美術作品は、手に取って鑑賞できるものだけではありません。例えば仏教美術の世界には、山の崖や岩肌に直接彫られた「磨崖仏(まがいぶつ)」という石仏があります。古代の磨崖仏は自然の中で長年風雨にさらされているため保存状態は悪いものの、本来は非常にできのよいものです。残念ながら石仏は木造や金属の仏像などに比べて評価が低く、唯一国宝に指定されている摩崖仏の「臼杵(うすき)石仏」についても、「木彫仏に比肩しうる」という観点からの評価に留まるのが現状です。
しかし、磨崖仏の独自性は、「作られてからずっと同じ場所にある」という点にあります。つまり、磨崖仏は山の中で修行をする山林仏教の場であったことを示しています。ほかと比べることのできない、石仏ならではの価値があるのです。
作品をどう未来に伝えていくか
保存状態が悪く資料も乏しい磨崖仏は、学術研究があまり進んでいないジャンルです。研究者によって言うこともバラバラで、評価が定まっていないのです。作品を後世につないでいくには、文化財や文化遺産として保護することが求められますが、そのためにはまず一つ一つの作品を研究して、学術的に評価する必要があります。
磨崖仏は史跡として文化財指定されることが多く、現在は美術史よりも考古学の分野で研究が進んでいます。さらに美術史的アプローチで研究し、考古学・歴史学・民俗学などさまざまな分野の情報を共有することで、研究をより良いものに進展させることができるでしょう。
※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。
※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。
先生情報 / 大学情報
