世界初! 「鉄」の吸収に関わるタンパク質の構造を解明
生命に必須の金属「鉄」
鉄は赤血球の中にある酸素を運ぶヘモグロビンというタンパク質や、エネルギー産生や解毒を担うタンパク質に含まれています。鉄がなければ、健康を保てません。ヒトの体内の鉄の総量は、小さなくぎ1本分くらい(4~5グラム)です。多すぎても少なすぎても病気になります。
特に、鉄が不足すると起きる鉄欠乏性貧血は、世界人口の約25パーセントを苦しめる病気です。鉄は口から摂取するしかないので、貧血の解消に鉄分を多く摂取することは昔から行われていますが、現在も鉄欠乏性貧血の人口は減っていません。摂取量ではなく、腸管での吸収量が問題だと考えられます。
鉄の吸収に関わるタンパク質
鉄は口から入って腸管で吸収されるまで、三価鉄(Fe³⁺)として存在します。それをビタミンCで還元して水に溶けやすい二価鉄(Fe²⁺)に変えるタンパク質と、二価鉄を腸管の細胞に取り込むタンパク質の、2種類のタンパク質が鉄の吸収に関わっています。このことは約30年前からわかっていましたが、それらのタンパク質を取り出して研究することができませんでした。
しかし、最近の研究で、このタンパク質を取り出すことに成功し、世界で初めてその構造が解明できました。このタンパク質には、鉄ともう1つの物質を入れるくぼみが見つかりました。そして、鉄と共にこのくぼみに入る物質は、果物に含まれる果糖のほか、複数種あることがわかりました。果物と肉を同時に食べると鉄分の吸収が良いという栄養学的な経験則が、化学的に実証されたのです。
病原菌対策にも期待
栄養素としての鉄の化学的な研究は、病原菌による感染症の対策にも利用できます。病原菌は人間の100万倍も鉄を必要としているからです。例えば溶血性レンサ球菌という病原菌は、動物に感染してヘモグロビンから鉄を奪う戦略で生きています。体内の鉄を奪うための化学的な仕組みを知り、その戦略を使えないようにする方法を見つけ出せば、新たな抗菌薬の開発につながると期待されています。
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