品種づくりだけじゃない 遺伝資源を守り、価値をつくる品種改良研究
ツツジの品種改良は江戸時代から
春から初夏に、庭や公園などで赤・白・ピンク・紫の花を咲かせるツツジを見たことがあると思います。世界的に親しまれているツツジは日本の野生種を改良した園芸植物で、その歴史は江戸時代までさかのぼります。なかでも当時最も有名だったのが鹿児島県霧島山に自生するツツジをルーツにした品種「霧島」です。薩摩から江戸へ渡った霧島は、ほかのツツジにはない濃い緋色(ひいろ)の花が高く評価され、江戸キリシマ品種群が発達しました。品種改良の結果、このほかにも多様な花色やかたちのツツジ品種が作出されました。
DNA情報を伝播研究や新品種開発に利用する
江戸時代にブームを起こしたツツジを、遺伝子という切り口で見てみましょう。ツツジはタネではなく枝を使った「挿し木」で繁殖します。これは、同じ遺伝子のクローンを増殖することですから、その遺伝子情報を手がかりに、古い文献情報と合わせて江戸キリシマが全国に広がった経路が明らかになってきました。また、伝統的な品種が持つ花色や花形変異の原因遺伝子を解析し、300年前の遺伝資源を交配に利用して、さらに新しい品種をつくる研究も行われています。
地域の遺伝資源を活用して地域を活性化
ツツジ古木の調査や花の形態変異の遺伝子解析に関する研究結果を国内外に発表し、その価値を認識してもらうと同時に、地域活性化にもつなげる活動が進んでいます。
石川県能登地方では、最近の調査により樹齢100年超の江戸キリシマ古木が500本以上発見されました。生きた文化財=地域の宝としての価値が認識され、保護活動と同時に観光資源としての活用もはじまりました。
花以外の植物遺伝資源の活用例として、大学が育成した辛味大根「出雲おろち大根」があります。山陰地域では昔から宍道(しんじ)湖周辺に自生する野生のハマダイコンを薬味として利用してきたことをもとに、品種改良により新たな地域特産品を育成する研究活動が展開されています。これも伝統をもとに新しいものをつくり出す品種改良研究のひとつなのです。
参考資料
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先生情報 / 大学情報
島根大学 生物資源科学部 農林生産学科 教授 小林 伸雄 先生
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