情報技術と人が一致・不一致の矛盾を抱えて融合する
自転車に乗れたときのアノ感じ
自転車に初めて乗ったとき、世界がガラリと変わったように感じませんでしたか? 多くの人は最初誰かに教わった乗り方を実現しようと身体を動かし、でも思うようにはいかず、なぜかあるとき突然コツのようなものをつかんで乗れるようになったのではないでしょうか。これは言葉で説明される手順と身体を使った動作を対応づけようとしていたにもかかわらず、乗れたときにはそれらがぴったり一致しているわけではない、という一致と不一致が混同したような状況です。それこそがアノ感じを生み出しているのです。
人工知能と天然知能
しかし一度乗れると、自分が乗るときには意識しない動作なのに、他人に教えるときには身体を動かす手順として説明すればよいと思ってしまいがちです。このような理解(手順と動作の対応づけ)を人工知能的といい、対して練習を経て乗れるようになる人の理解(手順と動作のズレに世界の変化を感じること)を天然知能的といいます。天然知能を応用することで、もう自転車に乗ることになんの不思議も感じないあなたも、逆にまたアノ感じを体験できるかもしれません。
天然知能を使って情報技術と人を融合する
近い将来、人々はアバターやロボットを遠隔操作しながら生活するようになるでしょう。ただ、操作者の感覚と機器の動きとが完全に一体化していったとき問題はないでしょうか? そこで役立つと期待されるのが天然知能です。例えば「阿吽(あうん)の呼吸」といわれるように、人同士は(もしかしたら動物さえも)「相互予期」という認知能力により、お互いの動きを読み合いながら行動しています。この能力により、沢山の人が行き交うときに自然な流れが生まれることが示され、2021年のイグ・ノーベル賞(動力学賞)を受賞しました。相互予期の特徴は、行動を決めるのは「私」でありかつ「私」でないという点です。このような成果を利用し、完全な一致ではなく不一致という矛盾を抱えながら情報技術と人を融合すること、これは今後の重要な研究テーマになるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
長岡技術科学大学 工学部/工学研究科 情報・経営システム工学分野 准教授 西山 雄大 先生
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