見直され、活躍の場が広がる専門家「薬剤師」
医療事故はなぜ起こるのか?
1991年、衝撃的な統計が発表されました。ニューヨーク州のある病院では、入院患者1000人の内2~3人が医療事故によって亡くなっているというものです。ニューヨーク州全体でみると、交通事故で死亡する人数と同数となり、死因として全米8位にのぼります。
医療事故の原因は6割以上が薬剤の使用に関係していました。肝機能、腎機能に障害があるのに考慮しなかった、アレルギー歴を見ていなかった、あるいは投与量や投与間隔をミスしたといった具合です。中には睡眠薬が効いたままの患者が目を覚まし、トイレで倒れてしまったというケースもあります。
薬の専門家として、攻めの医療安全へ
こうした事態が重く見られ、ある病院で研究が試みられました。薬剤師が医師の回診にも同行し、また病棟に常駐して24時間の電話対応を行ったのです。すると、何と有害事象が1/3に減少したではありませんか。具体的な内容としては、現状と違う新たな薬の提案や、アレルギーなどの総合チェックといった処方内容の不備の是正が4割強でした。
これまでの薬剤師は医師の処方箋の受け皿にすぎませんでした。それでは医療の安全は医師任せで終わります。まるで燃え始めている家の前で消火作業にあたるだけの存在でしかない。これでは患者はもちろん、薬剤師にとっても決して望ましいとは思えません。そこで、今後、薬剤師に求められるのは、薬の専門家として医療現場に積極的に参加して、燃えない家の建設に協力することなのです。
現場から研究室へ、研究室から世界へ
薬学の面白い点は、臨床と研究が一緒に学べることです。例えば、航空工学を専攻した場合、飛行機の設計はできても操縦をできるようになりませんが、薬剤師として働けば現場と研究の両方に携わることができます。薬剤師は、薬剤の専門家として医者と患者を支援します。今までになかった事象に出会えばそれを研究の種(シーズ)として研究現場にもどします。その研究結果が各国へ報告されれば、世界の多くの患者に影響を与えることもあるでしょう。現在の問題解決だけでなく、未来に向けての課題発見とその解決のためにも、研究室と現場との強い絆が必要とされるのです。
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静岡県立大学 薬学部 薬学科 教授 賀川 義之 先生
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