マンションの布団干しから考える日本の土地問題

マンションの布団干しから考える日本の土地問題

ベランダに布団を干しちゃいけないか

よく晴れた日に布団を干しておくと、夜ほかほかでとても幸せな気分になります。でも最近のマンションでは、布団を干している光景はあまり見かけません。たいていのマンションでは、外から見えるところに布団や洗濯ものを干すことを自主的ルールで禁じているからです。戸建て住宅ではあたりまえのことも、集合住宅では布団というプライベートなものを公衆にさらすことは控えようという配慮です。もっとも落下への安全上の問題もあります。
しかし、このようなルールが広まる以前には、次のようことがありました。横浜市役所が、完成の近かったマンションにある申し入れをしたのです。その申し入れとは、ベランダに洗濯ものなどを干さないようにすること、そのために物干し場をマンション屋上に設置することでした。わざわざそんな申し入れをした理由は、このマンションが横浜の名所の1つ、山下公園に向かう道に面していたためです。そんなマンションのベランダに、布団や洗濯ものが干してあっては横浜のイメージダウンになると考えたのでしょう。

洗濯ものと都市計画

洗濯ものの干し方にまで、自治体が口出しするのはおかしな話です。とはいえ、まちの景観を美しくしていくということは、自治体こそ率先して取り組まなければならない、まちづくり上の重要課題であることも間違いありません。
そこでクローズアップされてくるのが都市計画の問題です。日本では土地所有権が強大だったために、都市計画がきわめて不十分だったのです。そのためにマンションをはじめさまざまな建築に対するコントロールができず、無秩序なまちができあがってしまいました。
つまり、あるべきまちづくりのために、自治体がマンション建設に関与できないから、そのかわりに洗濯ものに関与する。横浜で起こったのはいわば本末転倒の事態です。本当なら洗濯ものの干し方といった瑣末(さまつ)な問題ではなく、その裏に隠れている、秩序なき街を濫造(らんぞう)している土地制度にこそ問題の根源があるのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

都留文科大学 教養学部 地域社会学科 教授 前田 昭彦 先生

都留文科大学 教養学部 地域社会学科 教授 前田 昭彦 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

メッセージ

あなたは日本のまちの景観をどう思いますか。海外旅行の経験がなくとも例えばネットの地図サイトで、外国と日本のまちの航空写真を比較してみましょう。雑然としたまちなみを美しく安心なものにしていきたいというのが私の専門分野です。従来建築学、都市工学など理科系にあった分野ですが、実は中身としては文科系です。高校の勉強からはなかなか想像できないと思いますが、まちづくり・地域づくりには文理両方の知識が必要です。この分野に関心持つ人は文科系の学科も視野に入れましょう。

都留文科大学に関心を持ったあなたは

都留文科大学は、教員養成の大学として知られており、これまでに1万人以上の教員が全国の教育界で活躍しております。近年では企業・自治体への就職者も多く、優秀な人材を全国に輩出しております。2017年には、国際バカロレアを研究する「国際教育学科」を開設し、また、2018年には初等教育学科を従来の教員免許に加えて中学校数学・理科の免許も取得可能な「学校教育学科」に、社会学科を地域で活躍できるグローバルな人材を養成する「地域社会学科」に改編し、2学部6学科となり新たな歩みを始めました。