植物の体内時計がつかさどる開花リズムの謎に迫る
近い種なのに正反対の開花時間
植物の花には、サクラのように何日も咲き続けるものと、アサガオのように一日でしぼんでしまう「一日花」があります。初夏から秋口にかけて日本各地の草原をオレンジや黄色の花で彩るキスゲ属は一日花ですが、種によって開花時間帯が異なります。例えば、ハマカンゾウは早朝に咲いて夕方から夜に閉じる昼咲き、キスゲは夕方から咲き始めて翌朝に閉じる夜咲きの花です。
このハマカンゾウとキスゲの両者を交配させて、昼咲き、夜咲き、中間咲きの出現割合を調べる実験が行われました。その結果はメンデルの法則のような遺伝法則に従ったものになりました。つまり、開花リズムが遺伝的に決定されていることが確認されたのです。
開花リズムをつかさどる遺伝子は?
人間に体内時計があるように、植物も概日時計を持っています。近年の遺伝子研究により、概日時計をつかさどる遺伝子群があり、さまざまな生理現象に影響を与えていることがわかってきています。ハマカンゾウとキスゲの開花リズムに関わっている遺伝子を特定するために遺伝子解析が進められており、開花時間の違いに関してほかの植物による知見は少ないため、キスゲ属の研究に期待が寄せられています。開花時間の制御メカニズムを分子レベルで解明できれば、遺伝子操作を用いた園芸や農業への応用も期待されます。
開花リズムの違いは生物多様性の一つ
植物の開花リズムの謎の解明は、生物多様性を理解する上でも重要です。同じ属のなかで開花リズムの多様性が生まれた理由は、花粉を運ぶ昆虫への適応と考えられます。昼咲きのハマカンゾウは昼行性のアゲハチョウの仲間が、夜咲きのキスゲでは夜行性のスズメガの仲間がパートナーとなって花粉を運びます。開花時間が重ならなくなったことで、限られた時間でより効率的に花粉を運んでもらえるようになったとも考えられます。生物たちは、自然環境のなかで、互いに利益を得たり、すみ分けたり、競争したりしながら、生態系を構成しつつ、進化しているのです。
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麻布大学 生命・環境科学部 環境科学科 助教 新田 梢 先生
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