生物の行動をシミュレーションして、最適化問題を解く
数学的に答えを出すのが難しい問題がある
工学の分野には、「最適化」という問題があります。例えば、アリの巣最適化は、アリの行動を模擬することによって、エサに到達する最短の経路を探し当てるものです。経路の数が少なければ、すべての経路をたどってみて、距離が一番短い経路を選択すればいいでしょう。しかし、通過する地点の選択肢が増えていくと爆発的に組み合わせの数が増えていき、計算に時間がかかりすぎるため、実用的な時間内に解を得ることが難しくなります。
正しい答えではなく、実用に問題のない解を求める
このような問題で利用されるのが、「メタヒューリスティクス」というアルゴリズム(手順)です。これは数学的に正しい解ではなく、実用として問題のない解を求めるものです。短時間で解を求めることができ、いろいろな問題に適用できます。このアルゴリズムでは、生物の行動をコンピュータでシミュレーションする方法が採られています。アリの巣最適化もその一例です。この問題は結局、最短経路の問題ですが、複数のアリの行動としてとらえ直すと、効率的に計算できます。これは「群知能型」と呼ばれますが、ほかに生物の遺伝・進化の過程をもとにした「進化型」もあります。
アリが経路に付ける匂いが経路を選ぶ要素
1匹のアリに注目してみると、最初、アリはランダムに経路を選択し、そこに匂いを付けます。ほかのアリも次々と経路を選択していきますが、しだいに最短経路の匂いが強くなっていきます。これは、アリが匂いの強い経路を選択するように設定されているからです。ある程度時間が経つとアリが選ぶ経路は1通りになり、最短経路を発見します。実際のシミュレーションでは、アリが選択する振れ幅は乱数で決まりますが、同じ行動ではなく、いろいろな行動をするというのが重要なポイントです。また、現実の複雑な問題を解こうとすると一般的には、それを数式の形で表す必要がありますが、この方法は難しい数式は使っておらず、単純な問題に置き換えて解いているため比較的簡単に解けます。
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先生情報 / 大学情報
山口大学 工学部 知能情報工学科 教授 中村 秀明 先生
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