労働の変化とともに変わってきた余暇の過ごし方

労働の変化とともに変わってきた余暇の過ごし方

現在のような余暇はどこからきているか

余暇は何のための時間かと考えると、「リフレッシュ」「自分自身の成長のため」といった考え方があります。こういう考えはどこからきているのでしょうか。歴史的に考えると、産業革命にさかのぼることができます。
産業革命以前の社会では、労働空間や労働時間などがきちんと決まっておらず、労働と余暇の境目はあいまいでした。例えばアメリカの鍛冶屋を例にとると、家の敷地内で仕事をしながら、合間に少し休んだり酒場に行ったりしていました。ただ「この地域の鍛冶屋=自分」という労働によるアイデンティティの形成は容易でした。

産業革命後、労働はどう変化したか

そこへ産業革命が起きました。工場で工業製品を大量生産するようになり、労働者の働き方も、始業時間に工場に出勤、決まった作業をし、終業時間になったら帰る、というものに変化しました。労働者は大きな組織の一員であり、労働内容はその組織の中でのごく一部の作業になりました。しかも、周囲と合わせて仕事をしなくてはならない規格化された労働者であることが求められました。これはホワイトカラーでも同様です。教育も、こういう労働のできる人間を育てることが目標とされました。

労働の変化が余暇も変化させた

このように労働が変化すると、前述の鍛冶屋のように、労働によるアイデンティティの確立がしにくくなってきます。こうして労働の変化は、余暇の時間や空間、理由、行為の変化につながっていきました。現在の資本主義社会における余暇は、生産性を維持するためのものであり、疲労から回復させる休息であり、自分らしさの追求のためのものとなっていったのです。
こうした余暇の変化には国家もかかわっています。アメリカでは大恐慌後の1930年代、仕事がなくなり増えた余暇の時間を社会にとって好ましく建設的なものにするよう、政府は国民の教化の取り組みを始めました。
このように、余暇を深く考えてみると、社会をよく映し出していることがわかります。

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東京大学 教養学部 教養学科 言語態・テクスト文化論コース 准教授 板津 木綿子 先生

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メッセージ

私の高校時代は、インターネットが登場する前で、地方に住んでいたので情報を渇望していたことを思い出します。オンラインで情報を得ることも大事ですが、いつも多方向にアンテナを張り、さまざまな機会をとらえて自ら出かけて行き、経験を増やすことはとても大事だと思います。同級生だけではなく、いろいろな世代の友人・知人をつくり、違う考え方を吸収することは重要で、自分の勉強の理解度もアップすると思います。例えば修学旅行などでも、ただ皆についていくのではなく、お店の人と少し話すだけでも考え方が広がると思います。

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東京大学は、学界の代表的権威を集めた教授陣、多彩をきわめる学部・学科等組織、充実した諸施設、世界的業績などを誇っています。10学部、15の大学院研究科等、11の附置研究所、10の全学センター等で構成されています。「自ら原理に立ち戻って考える力」、「忍耐強く考え続ける力」、「自ら新しい発想を生み出す力」の3つの基礎力を鍛え、「知のプロフェッショナル」が育つ場でありたいと決意しています。