染織品の修復から見える、日本人の豊かな感性と暮らしの知恵

布の断片から安土桃山時代の着物を復元
博物館や美術館には、貴重な染織文化財が多数所蔵されています。「染織品保存修復」では、染織文化財を後世に遺すために損傷した箇所を修復します。修復には、さまざまな知識や技術が求められ、和裁の技術はもちろんのこと、染色や染料に関する科学的知識から文化史に関する知識も必要とされます。例えば、博物館に所蔵されていた布の断片から、安土桃山時代の子どもの着物が修復、復元された時は、染織品の修復技術、染料分析、文化史など、さまざまな研究者が協力し、欠損している部分も再現して、当時の姿をよみがえらせました。
和装文化のサステイナビリティを学ぶ
染織品である着物の修復では、さまざまなことが見えてきます。例えば、着物を着用すると、左の前身頃は上になるため、右の前身頃よりも汚れやすく傷みやすい性質があります。修復をするために縫い目をほどいて確認すると、左右の身頃が入れ替えられていることがあります。これはすべてのパーツが長方形でできている着物の特徴を活かし、昔の人々が物を大切に使い続けてきた証です。現代では、低価格衣料品の大量生産・大量廃棄が社会問題となっていますが、昔の着物の修復を通して人々の知恵や物を大切に扱う心を知ることにより、和装文化のサステイナビリティという重要な気づきが得られます。
美術館・博物館で修復を待つたくさんの染織品
修復のために縫い目をほどくと、隠れていた縫い代の部分に鮮やかな染料の色が現れたり、時には墨書が書かれていることもあります。使用されている染料や着物の形態から、どの時代に、どのような人が着ていたのか、歴史的な背景を読み解くこともできます。各時代につくられた織物や刺しゅうの表現技法は素晴らしく、後世に伝えていくべき宝物といえます。博物館や美術館には、今も多くの染織文化財が修復を待っており、染織品の保存修復は、日本人の知恵と感性を次世代に引き継ぐ重要な役割を担っているのです。
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共立女子大学家政学部 被服学科 教授田中 淑江 先生
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被服造形学(和裁)、染織品保存修復学先生が目指すSDGs
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