実験・観察を通して、高齢ドライバの問題を考える
高齢者は一時停止がきちんとできない?
警察庁の交通事故データによると、65歳以上の高齢ドライバは出会い頭の事故が多いとされています。そこで、高齢ドライバの場合、交差点での標識見落としによる一時不停止が多いのではないかとの仮説から、テストコースで検証実験が行われました。一時停止標識の場所を時折置き変えて、コースを周回してもらったところ、概して高齢者は、非高齢者よりも一時停止の見落としが多く、停止ばかりか減速もしないことが確認できたのです。
音声支援システムで運転が改善
次に運転支援システムを自動車に設置し、その効果が調べられました。音声で「この先一時停止があります」と標識への注意喚起、「やさしくブレーキ」「しっかり停止」とブレーキの誘導を行い、発進時に「左、右」と両側確認を促すようにしたのです。その結果、高齢ドライバに改善の効果が見られ、一時停止の割合が増加しました。ただし、運転支援システムへの慣れや煩わしさといった問題は今後の課題として考える必要があります。
現実を反映した問題抽出と解決策の検討
一方で、実験から高齢ドライバには一時不停止を繰り返す人とそうでない人が含まれていることもわかりました。実は、高齢者の問題を考えるときに忘れてはいけないのは、「個人差」です。高齢者は若年者以上に個人の能力に差があるので、「高齢者」というだけで運転能力を判断するのは難しいのです。年齢以外の側面から危ないドライバを見分ける方法や、運転を続けるために何が必要かを明らかにすることが重要と言えます。
このテーマに取り組むためには、事故統計のような数値データだけではなく、地道に現実の交通場面やドライバ行動を観察して問題点の集約を図ることが必要です。これによって、実験による問題の再現や支援の効果検証もより現実に沿った説得力のあるものになります。このように実際に起こっている問題の本質にさまざまな形でアプローチし、解決方法を社会にフィ-ドバックしていく姿勢が、人間や高齢者が対象となる研究では求められています。
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愛知淑徳大学 人間情報学部 人間情報学科 教授 髙原 美和 先生
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