童謡「赤とんぼ」からわかる、古い日本語のアクセント

童謡「赤とんぼ」からわかる、古い日本語のアクセント

「赤とんぼ」はどう発音する?

日本の童謡の「赤とんぼ」の歌の中では、「赤とんぼ」という言葉は「“あ”かとんぼ」と「あ」の部分が高く発音されます。ところが、通常の会話の中では「あ“かと”んぼ」と「かと」の部分が高く、アクセントが異なっています。これは、もともと「“あ”かとんぼ」のアクセントだったものが、時がたつうちに、「あ“かと”んぼ」に変わったと考えられます。歌詞の中では作曲当時の言葉のアクセントが生かされることが多いからです。つまり、すでに日常会話では失われてしまった、かつての日本語のすがたを、歌を手がかりに知ることができるのです。

戦国の姫君のアクセントは?

歌や芸能から、もっと古い時代の日本語の様子を知ることも可能です。例えば、文楽(人形浄瑠璃)の演目である『本朝二十四孝』の中に、八重垣姫という戦国時代のお姫さまが出てきます。武田信玄の息子・勝頼を慕う姫なのですが、面白いのは「かつよりさま」と呼ぶとき、八重垣姫は「か」にアクセントをつけ、武士たちは「つ」にアクセントをつけて呼ぶのです。文楽では一人の太夫(芸人)がすべての登場人物を演じ分けるので、アクセントの違いが役作りの上で重要な役割を果たします。そして、このアクセントの違いは、演目が出来た当時の日本語を反映し、今日まで数百年間も受け継がれてきたのです。実際、文献や資料によると、姫君は「姫なまり」といって最初の音にアクセントを置く話し方をし、武士は関東風の「武士なまり」を使っていたことが記されています。

アクセントが示す日本語

ほかにも、古い時代のアクセントが、歌舞伎や能などの伝統芸能の台詞や歌詞の中に、息づいている例はたくさん見られます。それらを丁寧にたどることで、日本語という言語の歴史と変遷を明らかにできます。現代では、地域差や話し手の違いによるアクセントの区別がなくなってきています。それも時代の変化と言えますが、古い時代の日本語の様相を明らかにすることは、日本文化を研究する大切な手段の一つなのです。

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日本女子大学 文学部 日本文学科 教授 坂本 清恵 先生

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日本語学、日本文学

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文学部というと、講義を聞いて学ぶというイメージがありますが、日本女子大学では、例えば自分たちが使っている言葉や方言など、身近なテーマを取り上げて分析し、それを発表していくというゼミ形式の学びが多くあります。1年生から自主ゼミ活動があり、企画力、調査力、プレゼンテーション能力を養うことができます。日本女子大学で学んだこと、研究したことをどうやって世の中に発信するのかを考えながら、取り組んでほしいと思っています。

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