庶民の生き生きとした生活が伝わってくる古文書の魅力

庶民の生き生きとした生活が伝わってくる古文書の魅力

庶民が書き記した日常

歴史を研究する上では、史料にあたることは欠かせません。当時の人が書いた古文書を読むことで、そのときの人々の生活やものの考え方がどうであったか、具体的にイメージしていくのです。江戸時代以降、庶民の生活を知ることのできる史料が登場してきました。17世紀には、全国統一の字体(御家流)ができ、18世紀以降は寺子屋で、文字の読み書きを庶民でもできるようになってきました。
また、江戸時代には、武士は城下町に住み、庶民が暮らす村や町とは離れたところから支配するという、空間的な分離がおこなわれました。そのため、文書でのやりとりが必須になりました。武士からのお触れ(命令)や税の通達、村や町からの願い事や届出など、すべて文書が作成されました。また、村や町でも結婚する際の届出や奉公に出る際の契約書など、また、お祝いや香典などお金の出納や子どもの成長、家業の経営を書き記した備忘録のような日記など、多くの文書が残されるようになりました。これらの古文書から、当時の庶民の生活ぶりが生き生きと伝わってくるのです。

娯楽文化の登場

庶民も文字の読み書きができるようになったことから、娯楽として「黄表紙」と呼ばれる小説本が流行しました。小説を買うだけでなく、貸本屋という一カ月くらいの単位で本を貸す商売が生まれ、貸本屋は江戸・大坂・京都などの大都市の町中にかなりの数が存在しました。地域の名主が蔵書を貸し出す図書館のようなことをしていた記録もあります。また歌舞伎や人形浄瑠璃、浮世絵など、庶民が楽しめる文化が発達しました。神社の祭りでは、安く見られる芝居や見世物にたくさんの人々が集まりました。

現在と重なる古地図

古文書の中には絵地図など、当時の様子を視覚的に伝えるものもあります。古地図を見ながら今の東京を歩いてみると、道路や街区の地割りなどは現在も江戸時代のものを受け継いでいることがわかります。水路も形を変えて残っています。このように古い史料を、自分の足や目で確かめるのはとても楽しいことです。

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東京外国語大学 国際社会学部 国際社会学科 教授 吉田 ゆり子 先生

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日本史

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メッセージ

「東京外国語大学に日本史の先生がなぜいるの?」とよく聞かれますが「東京外国語大学だからこそ日本史は必要なんだよ」と答えます。海外に行って日本のことをいろいろ聞かれたとき、自分が日本のことをあまりに知らないことに気づくでしょう。世界的に有名な『武士道』は新渡戸稲造の著作ですが、ベルギーの法学者ラブレーから日本の道徳について聞かれ、のちにアメリカではっと思いついた言葉がタイトルになっていると言います。日本の歴史を学び、それを踏まえて日本を見つめ直し、海外で伝えていってほしいと思います。

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