スポーツの物語から、時代や社会が見えてくる

スポーツの物語から、時代や社会が見えてくる

「物語」を知れば知るほどスポーツ観戦は楽しい

スポーツにはプレーする楽しみのほかに、観る楽しみがあります。スポーツ観戦は、選手の動きや勝敗によって興奮や感動を得るだけでなく、選手のパーソナリティや逸話、チームの歴史など、その背景にある「物語」を知ることで魅力がアップします。観客は、スポーツから生まれる物語を含めて競技を楽しんでいるのです。

メディアに描かれるスポーツ

1930年代、当時新しいメディアだったラジオでは、東京六大学野球の実況中継が人気でした。当時ラジオを録音する技術はありませんでしたから、聞き逃した人のために、アナウンサーの語りを載せたり、さまざまな関連する情報を集めたりした、雑誌も出版され人気を博しました。
スポーツから生まれる物語は、フィクション小説の中にもたくさん見つけることができます。例えば、田中英光の『オリンポスの果実』は、1932年のロサンゼルスオリンピックにボート選手として出場した作者の経験をモチーフに、海外遠征の様子や思いを寄せる女性への心情が描かれています。当時日本は植民地政策をとっていましたから、作品には日本の選手としてオリンピックに出場する朝鮮の人や、アメリカに移住した日本人も登場します。読者は、小説を通して競技の世界を知るとともに、当時の社会や歴史、感性に触れることができるのです。

スポーツの物語を通して伝わるもの

スポーツはいつの時代も人々に楽しまれてきました。今日でもいろいろなスポーツが、新聞やテレビ、ラジオ、雑誌、小説、マンガなど、多種多様なメディアで人々に物語を伝えています。
文学研究では、小説をはじめメディアが伝える物語を通して、スポーツが社会の中でどのような役割を果たしているのか、どのように人々の間で消費されているのかを考察することも、面白さの一つです。それは、時代や社会、さらに人間そのものを理解することにつながるのです。

※夢ナビ講義は各講師の見解にもとづく講義内容としてご理解ください。

※夢ナビ講義の内容に関するお問い合わせには対応しておりません。

先生情報 / 大学情報

名古屋大学 文学部  准教授 日比 嘉高 先生

名古屋大学 文学部 准教授 日比 嘉高 先生

興味が湧いてきたら、この学問がオススメ!

近代日本文学、出版文化史

メッセージ

小説や詩など文学作品の魅力は、ストーリーであったり、登場人物、使われている言葉、あるいは作家自身などさまざまでしょう。そのような作品の魅力を、あなたは友だちに伝えることができますか? 「とにかく読んで!」では熱意は伝わりますが、よさはまったく表現できていません。
文学研究は、作品の面白さや素晴らしさ、作家の特徴をよりよく理解し、それを説明し、語るための手助けをします。文学の魅力を追究したい、国語の教員や研究者になりたい、言語表現や歴史を深く知りたい人は、日本文学が学べる大学にぜひ進んでください。

名古屋大学に関心を持ったあなたは

名古屋大学は、研究と教育の創造的な活動を通じて、豊かな文化の構築と科学・技術の発展に貢献してきました。「創造的な研究によって真理を探究」することをめざします。また名古屋大学は、「勇気ある知識人」を育てることを理念としています。基礎技術を「ものづくり」に結実させ、そのための仕組みや制度である「ことづくり」を構想し、数々の世界的な学術と産業を生む「ひとづくり」に努める風土のもと、既存の権威にとらわれない自由・闊達で国際性に富んだ学風を特色としています。この学風の上に、未来を切り拓く人を育てます。