『万葉集』の風景? 歴史遺産? あなたにとっての奈良はどっち?
『万葉集』と奈良の都
『万葉集』は、現在まで伝わっている日本最古の歌集です。平安時代の勅撰和歌集『古今和歌集』などと比べると、天皇や貴族とともに下級官人や防人(さきもり)などいろいろな身分の人が詠んだ歌が入っていて「国民歌集」と評価されたこともあります。
万葉の歌が詠まれた当時、奈良にはどんな風景が広がっていたのでしょうか。たくさんの建物が並ぶ都が目を引きそうなものですが、それらはほとんど詠まれず、都をつくった天皇を讃える時も、「豊かな自然に囲まれたすばらしい都」を詠むという方法がとられています。
江戸時代の奈良ガイドは『古今和歌集』
実は、明治時代を迎えるまでは『古今和歌集』の方が重視されていて、江戸時代のガイドブックともいえる名所図会でも『古今和歌集』や『新古今和歌集』の歌とともに奈良が紹介されてきました。しかし、時の流れとともに多くの人が奈良を「万葉のふるさと」としてイメージするようになります。万葉歌人の心を映す風景としての自然、田園風景を楽しみ、歌碑を巡る「万葉旅行」が形成されていく過程を探るのも興味深い研究テーマです。
あなたも歴史をつくっている
一方で、平城宮跡に復元された建物や社寺、仏像などの歴史遺産が多く残されている場所が奈良だという見方もあります。『万葉集』に代表される奈良の自然の風景よりもそれらに多くの目が向けられるようになっているとしたら、「奈良の役割」も変化してきているのかもしれません。
そういうことを考えていくと、実は、私たちも歴史の流れの中にいて、歴史をつくる主体そのものであるという実感が湧いてきそうです。歴史を学ぶということは、「こんなことがこの時代にありました」と、単に過去を見るのではなく、あるものへの関心を時間との関わりでとらえ直し、それが「今、なぜこんな形で存在しているのか」について考え、さらに社会の中での自分を見直すことなのです。
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先生情報 / 大学情報
奈良女子大学 文学部 人文社会学科 教授 西村 さとみ 先生
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