食べたい気持ちはどこからくる? ~食欲の仕組みを解き明かす~

食べたい気持ちはどこからくる? ~食欲の仕組みを解き明かす~

食欲にはホルモンが関わっている

人体のメカニズムはとても精巧につくられていて、さまざまなホルモンが複雑に働いています。例えば、食欲を感じるのも、身体や脳にあるホルモンが反応し合って、空腹感や満腹感を生み出しているからです。
1988年、サケの脳から「MCH(メラニン色素凝集ホルモン)」と呼ばれる化学物質が見つかりました。このホルモンは、魚類では体色に関わるホルモンですが、哺乳類では食欲をコントロールしています。

化学反応を起こす「鍵と鍵穴」

ホルモンはしばしば、「鍵」にたとえられます。ホルモンの鍵には、受容体という「鍵穴」が必要です。鍵にぴったり合う鍵穴があって初めて、体内で化学反応が起きるのです。
MCHを投与すると食欲が増すことは、実験により知られていましたが、この鍵穴となる受容体が見つかっていませんでした。世界中の研究機関でMCHの受容体探しが繰り広げられ、ラット脳の抽出物を使って候補となる受容体群と組み合わせるなど、さまざまな方向から研究が行われた結果、1999年、遂にMCH受容体が見つかりました。この発見を受けて、MCHと受容体の関係を阻害する化学物質を作ることができれば、効果的なダイエット薬の開発につながると期待されています。

心の動きも司るMCH

ところで、MCHは魚類では体色に関係するのに、なぜ哺乳類では食欲に関係するのでしょうか。進化の過程でMCHの働きがどのように変化してきたのかも、解明が待たれます。また、MCH受容体を詳しく調べると、食欲ばかりではなく、うつや不安など人間の心理や、睡眠にも関わることがわかってきました。MCH受容体は、脳の視床下部と呼ばれる部分の神経細胞に多く存在するのですが、信号の伝わる経路や信号が届く場所によって、食欲やうつ、不安など、異なる現象をコントロールしていると考えられています。どのような仕組みで働いているのか、分子レベルでの解明が進んでいます。

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先生情報 / 大学情報

広島大学 総合科学部 総合科学科 自然探究領域 教授 斎藤 祐見子 先生

広島大学 総合科学部 総合科学科 自然探究領域 教授 斎藤 祐見子 先生

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生命科学、生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は小さい時から顕微鏡観察などが好きな子どもでした。大学では生物学を専攻し、卒業後はいくつかの寄り道をした末、研究職に復活しました。そしてアメリカで研究中、激しい競争を経て、世界で初めて「MCH -MCH受容体」という組み合わせを見つけることができました。
高校生のあなたには、好きなことを何か1つ見つけて打ち込んでほしいと思います。好きなことなら集中して取り組むことができ、自然と上達し持続力もつくはずです。そしてぜひ、人と違うことを考える訓練をしてください。柔軟な発想を持つことで、道は開けるのです。

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