ダイエットが、気合いだけでは成功しないワケ

ダイエットが、気合いだけでは成功しないワケ

空腹や満腹を感じるのはなぜ

人間はなぜお腹が空くのでしょうか。そしてなぜ満腹になるのでしょうか。「ダイエットは意志が強ければ成功する」と思うかもしれませんが、気合いで成功するものではありません。そこには、精巧な人体のメカニズムがあるのです。
1983年、通常のマウスの3倍もの体重がある突然変異マウスが見つかりました。「ob/ob」と名付けられたこのマウスは、とてもよく食べ、丸々と太っていました。原因を調べてみると、「レプチン」というホルモンを作る遺伝子が、生まれつき備わっていなかったのです。

夢のダイエット薬ができるかも

ホルモンは従来、脳内で作る物質と考えられていましたが、レプチンは脳ではなく、脂肪細胞から発見されました。これは当時、大変な驚きでした。食事をして満腹になったサインを脂肪細胞が感知すると、レプチンを血液中に放出します。そしてレプチンが脳に到達すると、「満腹だから食べるのを止めなさい」という指令を出すのです。またレプチンは、「脂肪細胞をエネルギーとして燃やせ」という指令を出し、脂肪の蓄積を抑制する役割も担う、体重を適正に保つために必要なホルモンです。レプチンは夢のようなダイエット薬につながる可能性があったのです。

創薬分野で期待されるレプチンとグレリン

しかし、レプチンを作る遺伝子があっても極度の肥満の人もいます。そのことは、胃で作られる「グレリン」というホルモンで説明できる場合があります。これはレプチンとは逆に食欲を増進させる働きがあり、過剰に分泌されると食べ続けてしまうのです。
食欲は、レプチンやグレリン以外にもいろいろなホルモンが複雑に関わりあっているため、まだ多くの謎が残されています。しかし、これまで漠然とした概念だった食欲を、科学で説明できるようになったのは大きな進歩です。研究が進めば、ダイエットばかりではなく、遺伝的にレプチンを作ることができない人や、病気で食欲がない患者さん、拒食症の人など大勢を救う光となるのです。

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広島大学 総合科学部 総合科学科 自然探究領域 教授 斎藤 祐見子 先生

広島大学 総合科学部 総合科学科 自然探究領域 教授 斎藤 祐見子 先生

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生命科学、生物学

先生が目指すSDGs

メッセージ

私は小さい時から顕微鏡観察などが好きな子どもでした。大学では生物学を専攻し、卒業後はいくつかの寄り道をした末、研究職に復活しました。そしてアメリカで研究中、激しい競争を経て、世界で初めて「MCH -MCH受容体」という組み合わせを見つけることができました。
高校生のあなたには、好きなことを何か1つ見つけて打ち込んでほしいと思います。好きなことなら集中して取り組むことができ、自然と上達し持続力もつくはずです。そしてぜひ、人と違うことを考える訓練をしてください。柔軟な発想を持つことで、道は開けるのです。

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