「メンタルマップ」は、頭の中のオリジナル地図

頭の中に描かれた「メンタルマップ」
ゴールに餌を置いた迷路にネズミを入れて、餌にたどり着く実験を繰り返すうちに、ネズミの頭の中にはゴールまでの地図のようなものが出来上がるという学説が半世紀以上前に心理学で考え出され、のちに生理学的にも証明されています。この例のように、人間を含む動物は、自分の経験や既存の知識などに基づいて頭の中にイメージとしての地図を作り上げ、それをもとに行動します。そうした頭の中に描かれた地図を「メンタルマップ(認知地図)」と言います。
手描き地図からみたメンタルマップの性質
メンタルマップは、実際の地図と同じではなく、また人によって千差万別ですが、共通する特徴もあります。ためしに、あなたが住んでいる街の地図をフリーハンドで描いてみてください。描いた地図と実際の地図を比べてみると、さまざまなズレが見つかるはずですが、同じ街に住んでいる人の描いた地図を集めてズレの傾向を調べると、メンタルマップの性質がわかります。例えば、道案内にも使われる誰でも知っている場所や目印は共通に描かれ、移動の軸線となる川や幹線道路の向きを合わせた系統的なズレが見つかります。そのため、京都や札幌の中心部のように、碁盤目状に道路が走っていて目印がはっきりした地域では、個人差やズレが小さくなるという傾向が見られます。
メンタルマップの性質を生かした地図の表現
メンタルマップの性質は、さまざまな応用の仕方がありますが、その一つが地図の表現です。例えば、北を上にした地図で覚えたメンタルマップをもつ人は、南を上にした地図を見ると違和感を感じます。しかし、地図を使わずに覚えた空間では、そういうことはあまり起きません。このように、地図を使う場面や描かれる範囲によって、わかりやすい地図の向きが違ってきます。進行方向に応じて向きを変えたり、固定した向きに切り替えができるカーナビの地図は、メンタルマップの性質からみて理にかなっているのです。
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東京都立大学都市環境学部 地理環境学科 教授若林 芳樹 先生
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