外来の文学・文化を巧みに取り入れた、『源氏物語』の国際性
『源氏物語』は完全に日本のオリジナル?
今から千年以上も前、平安時代中期に紫式部によって書かれた長編『源氏物語』。当時については、日本独特の国風文化の潮流があったとされ、この作品もその象徴的な存在とみられることが多いようです。しかし実際は、完全に日本で生まれたオリジナルの要素だけで成り立っているのではなく、外来の文学と文化をかなり積極的に取り込んで利用しているのです。
国際的といいうる状況の中で生まれた新しい文化
例えば、『源氏物語』の「桐壺」巻には、まだ幼い主人公の光源氏が、高麗人(こまうど)の相人(そうにん:人相で占いをする人)のもとに素性を隠したまま連れていかれ、並々ならぬ相の持ち主であることを見抜かれるというくだりがあります。この高麗人の相人は、鴻臚館(こうろかん)という外交使節が接待を受ける館に滞在しており、7世紀末から10世紀初頭に中国東北部・朝鮮北部・ロシア沿海地方にかけて栄えていた渤海(ぼっかい)という国の外交官であると解されます。そのほかにも『源氏物語』では、かなりの頻度で漢詩文、とりわけ『白氏文集』を引用したり、多数の舶来品を描いたりしています。平安時代、遣唐使の廃止以降も、国際的といいうる状況のもとで新しい文化が育まれていったことがうかがえます。
千年の時を超え、世界中で読まれる『源氏物語』
『源氏物語』は、1933年に完成するアーサー・ウェイリーの英訳を契機に、海外でも広く読まれるようになり、これまで多数の言語に翻訳されています。もちろん、中国や韓国でもそれぞれ数種類の翻訳があり、広く読まれています。かつて、外来の文学・文化を巧みに取り入れながら書かれた『源氏物語』が、千年もの時を超え、今は世界中の人々の手に渡って読み継がれているのです。また、『源氏物語』の翻案作品、絵画化・漫画化・映画化された『源氏物語』なども数え切れないほどあります。光源氏をはじめとする登場人物たちだけでなく、この作品自体もまた、ドラマチックな運命を背負っていると言えるでしょう。
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早稲田大学 文化構想学部 文化構想学科 複合文化論系 教授 陣野 英則 先生
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