紙の本や雑誌はなくなってしまうのか?
転機を迎えた紙媒体
電子書籍の普及により、本や雑誌など紙媒体が減っています。しかし完全になくなることはないでしょう。テレビが出現したとき、ラジオはいずれいらなくなるとも言われましたが、地域FMや緊急災害放送のように人と人を声でつなぎ命を守るネットワークとして、ラジオにはほかのメディアにない存在感があります。またパソコンの普及によって「手で書く」という仕事が減り、オフィスでの需要が減った文房具は、新開発の消せるボールペンや多機能ノートなどプライベートなシーンで新たな消費を生み出しています。ラジオや文房具に起きたのと同様のことが、今後紙媒体にも起こるのかもしれません。
「コミケ」は出版の未来を予言していた?
出版ビジネスの主軸が紙からデジタルへと移行する一方、パソコンやプリンタを使えば誰でも自在に出版物が作れるようになったことで、若者たちの間では「リトル・プレス」と呼ばれる小規模出版や「zine(ジン)」と呼ばれるインディーズ・マガジンの輪が世界的に広がっています。日本ではコミックマーケットなどのマンガ同人誌の展示即売会が有名ですが、ほかにも文芸同人誌を集めた「文学フリマ」やアートブックフェア「ZINE’S MATE」など多彩なジャンルのイベントが開催されています。また、現代美術では本を主題や素材にしたブック・アートという表現も見られます。
電子にはなく、紙媒体にあるものとは?
最近は図書館や書店だけでなくブック・カフェでも読書会や講演会が開かれ、本好きの人たちが集まります。京都大学で始まった「ビブリオバトル」は各自が好きな本についてのスピーチを競うコンテストで、いまでは全国大学大会が開かれています。いずれも、インターネットで情報が共有できる時代だからこそ、本を媒介としたリアルなコミュニケーションが求められているわけです。その意味では、これからの本や編集について考えることは、これからの人間関係やコミュニティのありかたといった新しい公共性をデザインすることにも通じているのです。
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先生情報 / 大学情報
東京都立大学 システムデザイン学部 インダストリアルアート学科 准教授 楠見 清 先生
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