大きな経済発展より、一人ひとりの生活空間を大事に
生活空間をどうつくっていくのか
地域づくりや文化政策で大事なことは、経済発展優先ではない、という点です。工場誘致や技術導入、新しい建物といった大きな経済主体の波及効果を狙うのではなく、生活空間をどうするかに着目します。人間一人ひとりが暮らすことで、さまざまな効果が出てきます。働いている人も、子どもなど働いていない人も、地域で暮らす空間をつくっていくにはどうすればいいかを考えるのが文化政策です。
地域の文化をつくるもの
例えば、一つの企業が地域で強い影響をもつ「企業城下町」を例に考えてみましょう。企業城下町には、社宅がたくさん立ち並び、企業が建てた公共施設がたくさんあります。独自の景観をもっているのです。そして、そこには働き方に応じた日常があります。土日が必ずしも休みではない、夜勤が一般的である、男性が多い職種、といった場合もあるでしょう。そうなれば、お店の種類や営業時間、売っているものなど、その地域に住んでいる人に合わせたものになっていきます。それが、地域の独自性であり、地域の生活文化をつくります。もともとある祭りなどの伝統文化に加えて、文化政策の基盤になるものです。だから全国一律の文化政策は、ありえません。
進行中の事例も分析は可能
文化政策論では最新の事例を研究し、単なる一時的なトレンドでなく、それまでの学問の積み上げから、位置づけを考えていきます。移住を例に取れば、とりわけ東日本大震災以後、都会の価値観が経済発展だけでない豊かさを求める方向へ大きく変わったことが、新しい移住の波を起こしました。成功事例が出るにはまだ時間が必要ですが、移住が成功しかけている地域はあるので、研究する地域と比較・分析することができます。ただし、統計や資料を読んでも、フィールドワークをする場合でも、最も大事なのは学問の積み上げから判断する研究者の視点です。ゴールも価値観も、地域それぞれに多様性をもっているからです。
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先生情報 / 大学情報
高知県立大学 文化学部 文化学科 教授 宇都宮 千穂 先生
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地域政策学、日本経済史先生への質問
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