人の行動を左右する「偏見」はなぜ生まれるのだろう?
「社会的認知」の研究で得られるヒント
社会心理学の分野などで研究されている「社会的認知」とは、人間が社会から受け取った情報を頭の中でどのように処理しているか、その情報処理プロセスのことを指します。社会的認知について研究すると、社会の中で生じている問題がどのようにして引き起こされたのか、そのメカニズムを解明するヒントになる場合があります。
銃社会の悲劇から考える「偏見」のメカニズム
アメリカでは以前から、白人警官が一般市民の黒人を、武器を持つ犯罪者だと誤認して射殺する事件が後を絶ちません。1999年2月に、23歳のギニア人移民、アマドゥ・ディアロさんが、武器を所持していなかったにもかかわらず、4人の白人警官から41発も発砲され、19発の弾丸を受けて死亡した事件は、その象徴的な事例でした。発砲した警官たちは起訴されましたが、裁判では全員が無罪になったことで、各地で大規模な抗議デモが発生しました。
こうした誤射による事件が何度も起こる背景には、白人警官の側に、黒人と武器とを結びつける「偏見」のはたらきがあります。例えば、黒人が服のポケットに手を入れようとしたら、銃を取り出そうとしていると勘違いしてしまうのです。この偏見により、とっさの状況に置かれた時に、人間は自動的に反応してしまうことが実験でわかっています。ただ、その人が偏見を持っていること自体に気づいていない場合も少なくありません。また、偏見を持たないようにしようと意識すればするほど、この自動的なプロセスが作動してしまいやすいこともわかっています。
偏見をコントロールするトレーニング
偏見を持たないようにすることは難しいことですが、ある程度長期的なプロセスでトレーニングを積むと、自身をコントロールできるようになることも研究で明らかになっています。偏見がなぜ行動を引き起こすのかを理解した上で、社会の中でさまざまな事例に接したり、周囲の人々と友好的な関係を築こうとしたりすることも、偏見をコントロールするためのトレーニングになるのです。
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先生情報 / 大学情報
帝京大学 文学部 心理学科 教授 大江 朋子 先生
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