過酷な環境で生きる「極限環境微生物」の未知なる力を狙え!
DNA分析の変革に貢献した「好熱菌」
極端に温度の高い場所や低い場所、圧力の高い場所など、過酷な環境で生きることができる微生物を「極限環境微生物」と言います。こうした微生物は、通常の環境で生きている微生物は持っていない特長や能力を持っています。
例えば、高い温度でも生きられる「好熱菌」は、持っている酵素なども全部その温度帯で壊れずによく働きます。好熱菌のDNA複製酵素(遺伝子を増やす酵素)を活用することで、それまで分析が難しかった痕跡程度のDNAが分析できるようになりましたし、そのおかげで、それまでDNAの研究に必須だった放射能もほとんど使わなくなりました。これは好熱菌の熱に強い酵素ならではの功績です。
活躍が期待される「好冷菌」「低温菌」
温度の低い環境でしか生きられない菌を「好冷菌」、温度が低い環境「でも」生きられる菌を「低温菌」と言います。海洋の大部分は低温・高圧の環境で、様々な好冷菌・低温菌が生息しています。現在、脱炭素化やマイクロプラスチック問題などの環境保全に海洋の低温菌・好冷菌とそれらの低温活性な酵素の利用が期待されています。
脱炭素化を目指す対策として、食糧と競合しない未利用海藻多糖類からのバイオエタノール生産があります。低温で糖からエタノール発酵する酵母と同じ容器中で海藻多糖類を糖に分解できる低温活性な酵素が探索されています。また、海洋プラスチック汚染対策として、生分解性プラスチックへの代替が期待されます。従来の生分解性プラスチックは海洋での分解性能が悪く、改良が切望されます。しかし、海洋、特に低温・高圧の海洋環境にどんな分解菌や分解酵素が存在するか殆ど分かっていないので、低温・高圧環境の分解菌・分解酵素が探索されています。
まだまだわからない「好圧菌」「耐圧菌」
現在、まだほとんど解明されていない圧力に強い「好圧菌」や「耐圧菌」の研究が注目を集めています。極限環境微生物は無数に存在し、しかもそれぞれが多彩なので、これからも研究しがいのある分野なのです。
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先生情報 / 大学情報
東京海洋大学 海洋資源環境学部 海洋環境科学科 教授 石田 真巳 先生
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