さまざまな環境条件から、河川に潜む危険な細菌の密度を予測する
進む河川再生の試み
昔、川は子どもたちの格好の遊び場でした。しかし、氾濫防止などのために各地で護岸工事が進められ、魚釣りもできず、落ちたら自力でははい上がりにくい河川が急増しました。そして、人々が水辺に近づかなくなった結果、水の汚染やゴミの散乱が放置され、自然環境や景観を保つ河川が少なくなってしまいました。
その反省から、国土交通省は、河川における生物の生息環境や景観を保全する「多自然川づくり」政策を推進しています。ところが、人々が再び水に親しみ始めたことで、新たな問題が浮上してきました。それは病原性細菌への感染です。
細菌が水中で増殖することも
河川には、大量の生活排水や産業排水が流れ込みます。もちろん、各地の下水処理施設で浄化されるのですが、殺菌しきれずに放流されたり、ごく微量の菌が川や海の中で増殖したりする可能性が指摘されています。
特に多く見られるのが糞便(ふんべん)性の大腸菌で、水辺にいる人が毒性の高い菌と接触することで、感染症や疾患を引き起こす恐れがあります。そこで、「環境衛生工学」分野で研究が進んでいるのが、AI(人工知能)を活用した水辺におけるリスク予測です。
AIを活用して水中の細菌濃度を予測
各自治体が、川や海岸の水質検査を数十年前から実施しています。ただ、それらの検査は、いろいろな種類の菌をひとまとめにした「大腸菌群」の密度を計測するものなので、毒性のある菌がどれくらい含まれているかがわかりません。また、細菌の培養には約1日かかりますから、リアルタイムな警告を出すのは困難でした。
そこで、過去のデータに加え、各地で計測した最新データをあらかじめAIに学習させ、気温や水温、水質、その地域の人口や下水道普及率、上流域の地形などの環境条件から発生するリスクを予測しようという取り組みが行われています。研究が進めば、人々がより安全に自然と触れ合えるようになるほか、河川整備の際も、細菌が繁殖しにくい川の環境を提案することができるでしょう。
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先生情報 / 大学情報
西日本工業大学 工学部 総合システム工学科 土木工学系 教授 高見 徹 先生
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