過酷な環境にも負けない! 日本の食文化に根づく植物性乳酸菌
過酷な環境で生きる植物性乳酸菌
乳酸菌は、動物質の中で生きる動物性乳酸菌と、植物質の中で生きる植物性乳酸菌に大きく分けることができます。整腸作用と免疫調節作用という乳酸菌の性質は共通していますが、育ってきた環境は異なります。
動物性乳酸菌は栄養分が豊富な恵まれた環境にいますが、植物性乳酸菌は栄養分がアンバランスで、なおかつ植物質に含まれる刺激の強い成分の中で育ちます。過酷な環境で生き残るために細胞壁が強固になった植物性乳酸菌は、例えば人の口から入ると、動物性乳酸菌よりも高確率で腸に到達します。一方、動物性乳酸菌はほとんどが胃酸で死滅してしまいます。
植物性乳酸菌で発酵させた漬物がある?
日本には日本酒や漬物など植物を原料とした発酵食品がたくさんあり、中には植物性乳酸菌を利用して発酵させた食品もあります。例えば「すんき」という長野県木曽(きそ)地域の伝統的な赤カブの漬物は、塩を使わず乳酸菌を利用して発酵させています。すんきは木曽の赤カブでしか作ることができません。別の野菜では独特の風味が生まれません。その理由は、木曽の赤カブに多く含まれているリンゴ酸という成分にあります。リンゴ酸は乳酸菌で発酵させることでコハク酸という貝にも含まれるうまみ成分に変わり、おいしさが生まれます。
伝統的に受け継がれてきた植物性乳酸菌
発酵食品の作り方には植物性乳酸菌を生き残らせるための工夫が隠れています。すんきは11月頃に収穫した赤カブに、前の年に作ったすんきを加えて漬け込むことで作られます。年内には生産が終わるので、次の漬け込みの時期まですんきを腐らせずに乳酸菌の含まれた「種(たね)」を保存する必要があります。冷蔵庫がなかった時代には、すんきを乾燥させて保管したり、ビンに入れたすんきの漬け汁を土に埋めて温度の上昇を防いだりしていました。こうした工夫によって、360年以上にわたってすんきの中の乳酸菌を受け継いできました。すんきの乳酸菌を分析すると、4種類の乳酸菌が絶妙なバランスを保っていることがわかります。
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先生情報 / 大学情報
高崎健康福祉大学 農学部 生物生産学科 教授 岡田 早苗 先生
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