観察と遺伝子解析で進んだ多様なテンナンショウ属の分類

観察と遺伝子解析で進んだ多様なテンナンショウ属の分類

性転換する植物、テンナンショウ属

サトイモ科の植物に、「テンナンショウ属」というグループがあります。このグループの特徴は、なんと性転換することです。小さい時期には雄、成長してイモが大きくなると雌に変化します。世界で約180種、日本だけでもおよそ50種あり、とても多様化している植物です。日本に自生する有名な種では、ウラシマソウやマムシグサなどがあります。
このテンナンショウ属は分類が困難で、長年問題になっていました。

茎(=イモ)に注目して分類

そこで、新しい視点として、イモに着目した研究が行われました。
通常の植物の茎は長く伸び、葉がまばらについています。一番上の葉を1とし、下にむかって2、3、4……と番号をつけて真上から見てみると、ある植物では、葉が5方向に広がり、1の葉の下には6の葉が、2の葉の下には7の葉がきます。この性質を「5列縦生」と言います。
テンナンショウ属では、ジャガイモと同じように、葉の配列の特徴がイモで調べられます。イモは茎が太って短くなった地下茎だからですが、イモでは葉の位置を直接観察するのが難しいので、代わりに葉の付け根にある芽の位置を調べました。
すると、多くの種類ではイモの上に「5列縦生」の規則にしたがって芽がついていたのですが、2方向にしか芽がつかない種もあることがわかりました。この特徴を「2列斜生」と言います。

遺伝子の分析と組み合わせる

一方で、テンナンショウ属の遺伝子解析が進み、信頼できる系統図ができました。この系統図に、2列斜生の種を当てはめると、日本に生えている種と熱帯に生えている種の2系統にしか、2列斜生のものがないことがわかったのです。この理由はまだわかっていません。しかし、テンナンショウ属の分類はイモに着目することで大きく進みました。
多様な植物がどのように進化してきたかは、形態や生態的な特徴の発見の積み重ねという従来の方法と、遺伝子解析という新しい方法を組み合わせることでわかるようになってきているのです。

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東京大学 大学院理学系研究科附属植物園  教授 邑田 仁 先生

東京大学 大学院理学系研究科附属植物園 教授 邑田 仁 先生

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植物分類学

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「わからない」ということを大事にしてください。何がわかっていないかがわかっているから先に進めるのです。わからないことに押しつぶされるのではなく、「わからない」と言える力強さを持つことです。
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