教育と憲法の関係から日本の公教育のあり方を考える
教育から排除される子ども
真面目で理解が早く、試験の成績が良くて、先生に余計な手間をかけさせない、こんな生徒だけがそろったクラスであれば、学校の授業はこの上なくスムーズでしょう。しかし現実には、家庭や健康の問題などさまざまな理由から授業に追いつけない生徒もいれば、逆に授業を物足りなく感じる生徒も存在します。
日本国憲法第26条では、誰もが等しく教育を受ける権利が保障されています。実際には、「一定」を前提とした授業に追いつけない生徒は、理想的な授業の進行と比較して、それを妨げる存在とみなされてしまうこともあるでしょう。日本の教育制度のもとでは、子どもの人権が実質的に守られているとはいえないのです。
教育と憲法の狭間で
日本も加盟しているユネスコ(国連教育科学文化機関)では、すべての子どもが対等で平等であるとしています。また「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」や日本国憲法では、子どもを権利をもつ主体と位置づけ、おとなと同様ひとりの人間として人権を認めるとしています。しかし日本の教員養成課程では、子どもの人権や教育を受ける権利についてあまり教えられてきませんでした。本来なら教育学と憲法学の両方から議論されるべき問題ですが、その狭間にあるため、これまで十分に考えられてこなかったのです。
教育とSDGsの関係
子どもの教育はまた、貧困問題と密接な関係があります。日本の相対的貧困率は6~7人に1人と先進国の中でも高く、貧富の差に基づく階層格差が進んでいます。貧困家庭や一人親家庭が増加すると、子どもの学力に大きく影響します。国連サミットで採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の17のゴールには「貧困をなくす」「質の高い教育をみんなに」「人や国の不平等をなくす」ことが記されています。日本政府はSDGsを守ることを表明していますが、そのためには教育現場に子どもの権利を守る意識をもっと取り入れて、すべての子どもが等しく教育を受けられる制度を整えることが求められているのです。
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先生情報 / 大学情報
大阪公立大学 現代システム科学域 教育福祉学類 教授 伊井 直比呂 先生
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