自然と人間が共存するバランスを考える「指標生物学」とは?
川にダムを造るとどんな影響があるか
自然には植物や動物、地形や気候などさまざまな要素があり、すべてが影響し合いながら循環しています。その中で、人間が安全に生きるために自然に手を加えることがあります。例えば、ダムの建設では川が遮断されます。もし、その川でサケが遡上(そじょう)していたとすれば、サケはダムから上流には行けず、産卵の場を失ってしまいます。ではサケを保護するためにダムの手前に産卵場所を作ればこの問題は解決するのでしょうか? 人間の漁業資源としてのサケは確保できますが、ダムより上流にいるクマは餌を失うことになります。
海の栄養は森に運ばれる
さらに、サケは単にクマの栄養源であるだけではありません。生き物の体には窒素が含まれています。窒素にはN14とN15の2種類の同位体があり、海では陸よりN15の比率が高くなります。サケは海で成長するために、体にN15を豊富に蓄えています。遡上したサケをクマが食べると、食べ残しやふんはクマが暮らす森林に落ちます。森林はそれを栄養とするため、N15の比率は下流・中流域より高いことが知られています。サケがもたらす栄養により樹木の成長は促進され、木の実を食べるリスやネズミなどの小動物もこの恩恵を得ます。さらに、これらの小動物はテンやタカなどに捕食されます。生き物と環境とのつながりは1対1の関係ではなく1対複数であり、いくつもの循環がさまざまなパターンで連なっているのです。このように、生態系内の要素間における連続性を維持することは非常に重要なことなのです。
自然との共生の仕方を考える指標生物学
人が住むために、河川氾濫予防の工事をすることもあります。河川を直線化すると流速が速くなることから水深が浅くなり、湿地帯は乾燥化します。このような環境の変化は生物の生態に大きな影響を及ぼしかねません。一方で人間の安全も確保する必要があります。私たちは自然とどう共生を図ればいいのか、バランスをどう取るべきなのか、指標生物学はその方向性を探る手掛かりになるのです。
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先生情報 / 大学情報
玉川大学 農学部 環境農学科 教授 南 佳典 先生
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環境農学、指標生物学先生が目指すSDGs
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