誤解を防ぐ専門英語の世界をのぞいてみる

船上の明確な英語
「私、うなぎです」と言うと、レストランでは注文内容だとわかりますが、普通の場面では意味が通じません。一方、船員が使う「海事英語」は、一瞬の誤解が重大事故につながるため、場面によって意味や伝わり方が変わることは許されません。「Do you have any list?」は一般英語では「リストを持っていますか?」ですが、海事英語では「船は傾いていますか?」という意味です。海事英語には独特の表現が多く、「port(左舷)」「starboard(右舷)」などの専門用語や、「Warning(警告)」などの目印を最初につける国際ルールもあります。海事英語は世界共通の決まりごとで、どんな国の船員でも同じように理解できる言葉が使われています。
「なぜ」を大切にする英語教育
海事英語の教育では、「なぜこの表現が必要か」という背景を教えることが大切です。船上では異なる国籍の船員が共に働くため、誰もが国際基準で決められた同じ表現を使い、伝えなければなりません。実際の事故事例を紹介しながら「なぜそう言うのか」を理解することで、記憶に強く残るようにします。単なる言葉の暗記ではなく、理由の理解が伴うと、実際の状況でも適切に使えるようになるのです。「理由付け」による教育法は、どんな英語学習にも応用できます。
特徴がわかってこその実践
静岡の清水港では、海事英語研究が観光英語教育に生かされています。「厳格な決まり文句」の海事英語と、「相手との心地よいコミュニケーションを大切にする」観光英語は正反対の特徴を持つため、両方を研究することで、それぞれの特徴や大切さが明確にわかるのです。学生たちは外国人観光客と実際に話して、「こんな時、どう言えばいいの?」という場面をまとめた「実用的フレーズ集」を作っています。初めは無償で始めたこの活動が、今では時給4000円の通訳アルバイトに発展して、「英語を勉強する」から「英語でお金を稼ぐ」という新しい形が生まれているのです。
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東海大学海洋学部 海洋理工学科 航海学専攻 准教授加藤 和美 先生
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