認知症ケアの現場でバランスよく発揮したい2つの「共感性」
共感性は対人援助に必要な能力
「共感」とは、他者の感情や認知を共有する心のメカニズムです。対人援助の現場では、援助者に「相手の立場に立つ」ことが求められます。ただ、脳に障害をかかえる、認知症の人の支援では、認知症の人の気持ちや考えに共感することは容易ではありません。
それでは、援助者の共感性が高ければ、相手をより理解でき、良い支援やケアができるのでしょうか?
自分と相手の気持ちの区別が難しい情動的共感
共感は「情動的共感」と「認知的共感」に分けられます。例えば新生児室で赤ちゃんが泣くと、隣の赤ちゃんがつられて泣くのは、相手の感情を自分のことのように感じる力、情動的共感によるものです。ただ、影響されない赤ちゃんがいることからもわかるように、人の情動的共感には生まれつき違いがあります。一見すると、情動的共感性が高い人ほど相手の立場を理解できそうですが、そうとも言えません。
そもそも「相手の気持ちが分かった」というとき、それはあなたがそう思い込んでいる状態ともいえます。泣いている人を見てつらい気持ちになったとき、その気持ちが相手のものか、あなたのものかの区別は難しいものです。そのため、情動的共感だけで相手を理解してしまうと、相手を誤って理解してしまいます。
認知的推論による認知的共感
自他を区別することが難しい情動を感じとる情動的共感に対して、認知的共感は相手の視点をとって相手が見えている状況を推測する力です。認知的共感は努力や教育によって高めることが可能です。認知症ケアや対人援助の現場では、相手を観察したり、話を聴いたり、あるいは知識として得られる情報から推論し、その時にもっとも妥当な「相手の気持ち」の仮説を立て、それに基づいて働きかけ、相手の反応を追加情報として、仮説を修正するというプロセスを踏んで支援を進めていきます。
ただし、認知的共感だけでは、機械的で融通がきかない支援になってしまいます。
情動的共感と認知的共感がバランスよく共存することで、的確な理解と温かみのある支援が行えるのです。
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聖徳大学 心理・福祉学部 心理学科 教授 北村 世都 先生
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