人間のように間違えるプログラムを開発するのはなぜ?
行動と情報をつなぐ
現代社会では、位置情報や電子決済の履歴、スマートウォッチで収集した心拍数など、さまざまな人間の行動がデータ化されています。「行動情報学」は、この人間の行動と情報をコンピュータでつなぎます。この分野では行動データの活用方法を考える研究が主流ですが、行動の背後にあるメカニズムのモデル化も試みられています。人間が行動を起こすきっかけとなる「認知」と呼ばれる心の動きを、コンピュータで再現しようとしているのです。
認知をコンピュータで再現する
従来のプログラミングでは、コンピュータが正確な答えを返すことが重視されてきました。しかし人間は選択を間違えたり、予想もつかないような意外な行動をとったりすることがあります。こうした「間違い」も考慮しなければ、人間そっくりな認知を再現できません。そこで人間の脳の仕組みを模倣した「認知モデル(認知の模型)」をコンピュータプログラムとして作り、モデルと人間が同じ課題に取り組むシミュレーションが行われました。ゲーム内で車を運転する、異なる言語を持つ人とコミュニケーションをとるなどさまざまな課題を設けます。そのなかで、人間とコンピュータの行動をそれぞれ分析することでその傾向を見つけ、結果がほぼ同じになるようにコンピュータの認知モデルが改良されました。
人間がより賢くなる?
人間と同じような認知モデルを使うと、人間が自分自身をよく理解できるようになることが期待されています。人間が行動を起こすときに、どのような認知が行われているのかは本来目に見えません。もし鏡のように自分の認知が目の前で可視化されれば、例えば「車を運転するときはこうしたミスを起こしやすいから気をつけよう」など、自分の行動を客観視しやすくなり、人間はより賢くなっていく可能性があります。このように自分の内面の認知を第三者の目線で認知することは、心理学で「メタ認知」と呼ばれています。コンピュータを使って人間のメタ認知能力をさらに強化しようと、新たな認知モデル作りが行われています。
参考資料
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静岡大学 情報学部 行動情報学科 教授 森田 純哉 先生
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