国際社会で「法の支配」はありえるの?
コルフ海峡事件の顛末
最近、「国際社会における『法の支配』」という言葉をニュースで耳にしますが、主権国家を超える権力が存在しない国際社会で「法の支配」はありえるのでしょうか。ここでは、1946年に起きたコルフ海峡事件を例にしたいと思います。
コルフ海峡事件では、ギリシャとアルバニアとの間にあるコルフ北部海峡を4隻の英国軍艦が通過した際、そのうち2隻の駆逐艦がアルバニアの領水内で機雷に接触し、乗組員44人が亡くなりました。当時のアルバニアには機雷を設置できる能力がありませんでしたが、機雷は事故直前にアルバニアの領水内に敷設されていたのです(実際にはユーゴスラビアが設置しました)。そこで英国は、アルバニアに責任を認めさせるために国際司法裁判所(ICJ)に訴えました。ICJは、アルバニアは領水内の機雷を認識していたはずだという結論に至り、現在の日本円で約40億円の賠償金を命じました。
やっぱり国際社会における「法の支配」は難しい
しかし、アルバニアは貧しい国で、賠償金を英国には支払いませんでした。英国は、いろいろと手を尽くして賠償金を得ようとしますが、なかなかうまくいきません。また、英国としては賠償金を得ずにはアルバニアとの外交関係も再開できません。結局、英国がアルバニアと外交関係を設立できたのは、隣国のユーゴスラビアで内戦が勃発する直前の1991年5月でした。また、賠償金については、1992年5月にアルバニアが英国に約2億円を支払うことで妥結しました。
それで結局どうなんですか?
コルフ海峡事件は、国際社会における「法の支配」の可能性と限界が明確になった事例です。国際裁判は、国際法に基づき国際紛争を解決する手段の一つですが、その強制力は乏しいので、各国に国際裁判所の判断を自発的に尊重してもらわないとうまく機能しません。他方で、判決を拒んだアルバニアも最終的には英国に賠償金を支払いました。この点で、国際社会における「法の支配」は完全ではないかもしれませんが、決して「夢物語」というわけでもないのです。
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帝京大学 法学部 政治学科 教授 喜多 康夫 先生
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